学生アルバイトを束ねる人材がほしい
「何回いえばわかるんや」
ぼくが厨房で、新メニューのナポリタンを取材しているときのことだ。学生バイトの門脇が、神妙な顔つきで黒田の話を聞いている。何かミスをしたのだろうか。客席には聞こえない程度の声だったが、それが逆に聞いてはまずい気がして、ぼくは急いで席に戻った。
「何かあったの?」
「魚粉の入れ忘れです」
黒田がソース焼きそばを席に持って来ると、門脇とのやり取りを説明してくれた。
焼きそばは風味を出すために魚粉を入れているが、このプロセスを忘れることがあるという。夢中になると、門脇は紙に貼り出された注意が目に入らなくなってしまう。ささいなことだが、黒田は手加減しなかった。
「ぼくたちがやっているのは顧客サービスですからね。食べに来るお客さんに対する意識を、常に高く持たなきゃいけないんです。それができてない従業員は、徹底的に指導する方針です。いいところもたくさんあるやつなんで、あんなことでミスしたらもったいないんですよ」
そういうと黒田は、門脇がいかに店に献身的か説明した。門脇はアルバイトとして一番の古株で、開店前から黒田を支えている。シフトに穴が開きそうなときには率先して自分が入るなど、前向きな姿勢が店にとって貴重な存在だった。
学生アルバイトがいいのは、若者がいるだけで店が明るくなるところだ。学生のつながりを通じて、若い客が集まってくるという効果もある。しかし一人では、全員の育成まで手が回らない。黒田が求めているのは、学生アルバイトを束ねることのできる人材だった。
アルバイトを2人雇うと、人件費の比率が40%超に
店を任せるのに、料理の腕があるだけでは不十分だ。パートタイムではなく、平日フルに働いて、店全般を仕切れるような人材が欲しい。
「社員みたいな存在か?」
黒田は厳しい表情でうなずいた。頭のなかでコストの計算をしているのだろう。
月曜日、水曜日、木曜日のランチは黒田がワンオペで回し、それ以外の日やどうしても忙しいときはアルバイトを1人入れていた。しかし黒田がいないと、アルバイトを2人入れなければならない。単純にコストが倍以上になってしまう。
仮にフルタイムでアルバイトを1人雇い、ランチタイムなど忙しい時間帯だけもう1人雇うとすると、一日当たり1万5000円ほどの人件費がかかる。平均40食で客単価900円とすると、売り上げ3万6000円に対する人件費の比率は40%を超える。