人手は足りず、設備も不十分

12月に入ったある日のことだった。仕事帰りで、店に着いたのは8時ごろだった。

「チケットの使用でいいですか?」

ぼくの顔を見ると、黒田が出てきた。ほかに客はいない。グルーポンのチケットで、普及用に一食500円で提供している。試しに購入してみたもので、売り上げの効果は悪くないという。食事用に一つと持ち帰り用に一つ頼んだ。

この日もアルバイトの学生が慣れていないからか、取材中何度か黒田の指示を仰いでいた。カウンターに一人、テーブルに一人、カップルが一組来店したが、黒田も気になって仕方ない。話を中断しては、厨房の動きを確認していた。

「まだ、社員の採用はしてないんだ?」
「探してるんですけど、なかなかちょうど良い方が見つからないですね」

理想は、黒田の右腕となって働いてくれる社員だ。そうなれば黒田も、安心してフードトラックに専念できる。今のままではフードトラックを購入した意味がなく、レンタルに出したほうが収益に貢献するくらいだ。

「新年に向けて何かやりたいことはある?」

ぼくは雰囲気を変えようと、前向きな話題をさがしてみた。黒田は思い浮かべるような表情をすると、腕を組んだ。

「やりたいことはたくさんありますけど、その前に見直さなきゃいけない部分があまりにも多いですね。食のプロになるっていったって、自分の店すら黒字にできない人間に何の説得力もないですから」

ぼくはうなずくことしかできなかった。

下北沢という土地柄、外から来る客をどう伸ばすかに注力してきたが、平日のマーケットが狭いのも問題だった。美容院やアパレル、歯科医といった顧客がリピーターになっているが、広がりがない。来店数を増やすために、露出を増やす必要があった。

厨房にも課題がある。ワンオペを徹底するにはオペレーションの簡素化が不可欠だが、厨房の機能性に問題があった。今のキッチンではコンロが2つしかないため、麺を焼きはじめるとすべての作業がストップしてしまう。極めて非効率だ。

麺の下焼きを事前に済ませておき、注文をもらってから仕上げれば、よりスピーディーに提供できるようになるのではないか。そのためにコンロは少なくともあと2つ増やしたいし、具材を効果的に管理するための大きな冷蔵庫も欲しい。

行列のできる人気店を目指していながら、そのための設備がないという根本的な問題に直面していた。(続く)

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