合計5店舗で月商1000万円を達成
店舗運営の面では、初期投資を250万円程度に抑えることができた。開店費用を運営会社と折半にしたからだ。1000万円近くかかった焼きそばの4分の1程度だ。
店舗の賃料は売上歩合の形態をとっており、最低保証額を固定賃料の相場より低く設定している。売り上げが好調なときは賃料が割高になるが、販売不振時に賃料で苦しむことはない。
焼きそばは時間をかけて顧客に認知させていくというオーソドックスな戦い方だったが、バナナジュースでは時間も金もかけないシンプルな戦い方に徹している。満足できるわけではないが、コロナ禍で戦っていくにはこれしかないというのが黒田の結論だった。
2021年に入り、黒田はバナナジュース専門店を4つオープンさせた。
仙川に続いて、池上、八王子、府中、桜上水の駅前に出店した。駅ナカではないが、店のコンセプトは変わらない。バナナジュースだけの、持ち帰り専門店だ。夏を前に、月商は1000万円を達成した。このペースが続けば年商1億円だ。
「飲食店はもうからないっていうのも、間違ってないかもしれないですね」
バナナジュースを差し出すと、黒田は腕を組んだ。
料理が好きとか、食べるのが好きというだけでは、飲食店経営はむずかしい。何年続けることができるかというプランと体力が必要だという言葉に、実感がこもっていた。
もはや飲食店にテーブルは必要ないかもしれない
ただ気をつけなければいけないのは、経営理念は理想ではないことだ。求められるビジネス形態はどんどん変化している。
今や料理は、店でなくても味わうことができる。焼きそばで学んだ経験を、活用したのがバナナジュースだ。接客サービスをしないことで、飲食店経営におけるムリ・ムダ・ムラを極限まで排除している。売れなければすぐに切り捨てるという身軽さもある。
想像していた飲食店ビジネスとまったく違う世界を突き進んでいくことに、黒田も迷いはあったという。しかし、こんなビジネスでなければ生き残っていけないほど、社会情勢は厳しくなっていた。もはや飲食店に、テーブルは必要ないかもしれない。
今年5月末を最後に、黒田は焼きそばを作っていない。次に考えなければならないのは、冬にどうやってバナナジュースを売るかだ。むずかしい課題を与えられるほど、黒田の表情が楽しくなるように思えた。