カルト問題も子どもの性被害も根っこは同じ
オウム真理教など、カルト宗教裁判の弁護などで知られる紀藤正樹弁護士は、塚原たえさん(52歳・以下たえさん)を「ジャンヌ・ダルク」と呼び、性被害問題のサポートを行なっている。二人は同じ山口県宇部市の出身という共通項はあるが、カルトと性被害では、あまり関連性がないように思える。
なぜ紀藤さんはたえさんのサポートを行っているのだろう。
「カルト宗教と子どもへの性加害というのは非常に親和性があるんです。カルトでも会社組織でも学校でも、そして家庭でも、集団では力学が働きます。つまり上位にいる者が、立場の弱い者や子どもに対して性的・精神的肉体的虐待を起こすことがある。実際にカルトでは女性や子どもへの性加害、会社や学校でもセクハラやパワハラが起こっています。これらは別の次元のことではなく、すべてつながっているのです。だから私は、これらの問題に対する法整備に尽力しているのです」
と紀藤さんは説明する。
慰謝料が安すぎて、裁判に持ち込めない
そんな中「ジャニーズ問題」で大人から子どもへの性加害があることが、世間に周知された。時効(前編参照)の枠を超え、被害を申し出た男性たちに、旧ジャニーズ事務所は慰謝料を支払い、一応解決したかのようにみえた。
しかし、紀藤さんは子どもへの性加害には、時効撤廃以外にも問題があると言う。
「ジャニーズ問題の被害者さんたちは、大体数百万の慰謝料で和解していますが、金額が安すぎます。性被害は“いくら損害を受けたか”が算定しづらいというのが主な理由です。でも、被害を受けた人が一生心の傷を背負って生きていかねばならないほど、苛烈な体験なんです。名誉毀損でさえ百万単位の慰謝料が支払われることがあるのに、性被害がこの額ではバランスが悪い。たとえ、数百万円取れたとしても、裁判をすれば多額の弁護士費用や裁判費用が必要ですし、何年も裁判で戦うことになる。裁判所に出廷する度に仕事を休んでいれば、そこでも経済的損失が大きくなる。だから裁判を諦めてしまう人が多いんです。つまり泣き寝入りせざるをえないんです」