※本稿は、奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
PS5購入の闇バイトで転売に加担させられた大学生の逆襲
秋葉原のヨドバシカメラでPS5転売に加担したSは、その日も自室のベッドに仰向けになり、目を皿のようにしてスマホの画面を操作していた。ここ最近、アマゾンや楽天市場をはじめとするECサイトや、ネット掲示板、SNSなどを日に何度となく巡回するのが日課となっている。目当てはPS5の販売情報だ。
小銭欲しさに飛びついた怪しい転売バイトは、実際は自身の持つ「ゲーム機の購入権」を売り渡す取引だった。その権利を自ら行使してPS5を手に入れ、フリマサイトで転売すれば、バイトの報酬の3倍ほどの利益が得られていたはずである。しかし、そのことを知らなかったために、第三者に安値で横取りされてしまったも同然の結果となった。自身の無知に付け込まれるかたちで、搾取されたことに歯ぎしりせずにはいられなかった。
転売ビジネスに大きなチャンスがある。Sはそう確信していた。商品の入手に数時間はかかるが、その後はネット上で見つけた売り先に配送の手配を行うだけで、数万円が懐に入る。時給換算すれば、飲食店アルバイトの8倍以上になりそうだ。
転売ヤーグループから情報を入手し、自分で売ることに成功
当時、家電量販チェーンで行われていたPS5のゲリラ販売には、「過去に購入歴がないこと」という条件が設けられていた。さらに、支払いは各チェーンが発行するクレジットカードを使用することが求められており、店側は購入歴の有無を確認できる仕組みになっていた。こうしたゲリラ販売は、ビックカメラでも行われていた。Sは支払い手段として指定されているコジマ×ビックカメラカードに入会し、購入権を得る。それと同時に、ヨドバシカメラでPS5を購入した時の依頼主・曹宝にもこう連絡を入れた。
「ビックカメラでPS5の販売があった際にはまた手伝いますので、連絡してください」
約2週間後、曹宝からメッセージが来た。
「明日の朝8時からビックカメラ新宿西口店に行ってもらえますか?」
Sは翌日、指示通りに現地に向かった。そして、ヨドバシカメラ・マルチメディアAkibaと同じ要領で、PS5通常版を入手することができた。
違っていたのはそこからの行動だ。手に入れたPS5を引き渡すことはせず、自宅へと持ち帰ったのである。曹宝と連絡を取ったのは、ビックカメラのゲリラ販売情報を入手することが目的だったのだ。
曹宝からは状況を尋ねるLINEが何通か来ていたが、アカウントをブロックした。
意趣返しに成功して「してやったり」の思いだった。