12月22日までに20点のうち16点が売れ、残った商品は…

「手渡しの取引が可能でしたら即決購入させていただきますが、いかがでしょうか?」

メルカリのコメント機能で問い合わせが届いたのは、日付が23日に変わった深夜のことだった。

先方は、23日中に都内で受け取れるのであれば、Sが指定する場所と時間に向かうという。手渡しでの取引は経験がなかったため少し気が引けたが、クリスマスを過ぎれば不良在庫になる可能性もある。売れるだけ売っておきたい。Sはこの申し出を受けることにした。

宛名を匿名にしたままヤマト運輸を使って配送できる「らくらくメルカリ便」としていた発送方法を「未定」にして出品し直すと、購入されたことを知らせる通知がすぐに来た。

「取引画面」で購入者とやり取りをし、手渡しはSの自宅の最寄り駅の交番前で、夕方5時と指定した。交番前を選んだのは、相手が良からぬことを考えていた場合、防犯効果があると考えたからだ。

Sが約束の時間ちょうどに到着すると、30代後半くらいのスーツ姿の男性がすでに交番を背にして立っていた。

軽く挨拶をして持参した商品を渡す。彼は低姿勢で愛想も良く、不埒ふらちな人物には見えない。受け取った小箱を傷がつかないように注意深く開けて中身を確認するとこう言った。

「昨日、娘が急にサンタさんへのお願いを変更したので、急いで何軒もお店を回ったのですが在庫がなく、ネット店舗からはクリスマスイブまでには配送が間に合わないといわれ、困っていたのでとても助かりました」

手渡しで販売した父親に感謝され、サンタになった気分に

Sは交番前を待ち合わせ場所に指定しながらも、実は犯罪に巻き込まれることより、転売行為を非難されるかもしれないという不安を抱いていた。感謝の言葉をかけられるとは全くの予想外だった。

奥窪優木『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)
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気をよくしたSは、別れ際に男性にこう言葉をかける。

「メリークリスマス!」

まるで自分がサンタクロースにでもなったかのような気分だった。

Sのクリスマス転売の最終的な売り上げは、約22万円だった。クリスマス後に定価の2割引ほどで出品して、在庫処分した3点の売り上げも含まれている。メルカリの手数料や送料を差し引くと手元に残ったのは5万円だった。

決して楽に儲かったわけではない。しかし、梱包や発送の手間を考えても、時給換算すると飲食店のアルバイトよりは高かった。扱う商品の点数を増やせば、商材のうたい文句の通り、「1週間で20万円」も達成可能だっただろう。

情報商材に支払った9000円の回収が当初の目標だったSは、それをゆうに超える利益を手にし、ある程度の満足感を得ていた。

奥窪 優木(おくくぼ・ゆうき)
フリーライター

1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。ツイッターアカウントは@coronasagi