家電量販店の購入権を使い果たし、ECサイトでの販売を待つ

その後、Sは入手したPS5をメルカリに出品し約10万円で売却することに成功した。販売手数料や送料を差し引いても約4万円のもうけである。

Sはこの成功に味を占めた。しかし、すでにヨドバシとビックカメラという大手家電量販店の「購入権」は使い果たしてしまった。

そこで目をつけたのが、ネット上のゲリラ販売だ。ネット掲示板などでは、アマゾンや楽天市場内の店舗で散発的に行われていることが、しばしば話題になっていた。特定のクレジットカードの会員である必要はなかったが、事前告知なしに突然販売が開始されるうえ、在庫の数も限られている。購入には常時の情報収集と「瞬発力」が問われるのだ。Sがネット・パトロールに励んでいるのはそのためだった。

1カ月以上ネットの海を探索しつづけても、PS5の購入に成功することはなかった。

一度、とあるネットショップによるゲリラ販売で、「在庫あり」表示を発見し、急いで購入ボタンを押した。しかし、決済ページ画面の注文確定ボタンを押すと、エラー表示が出現し、「売り切れ」であることが告げられた。あと一歩のところで獲物を逃したのだ。

それもそのはず。購入者の資格を問わないネット上のゲリラ販売には、転売ヤーグループが多数参戦している。しかも彼らは、限られた在庫を奪取するために、ある特殊な武器を導入しているのだ。

転売ヤーグループが使う「自動購入BOT」とは?

大手ECサイトのエンジニアが明かす。

「人気商品の限定販売やセールでたまに起きるのが『在庫の瞬殺』です。例えば100点ほどの在庫を告知なく『一人一点限り』で売り出したような場合でも、販売開始からわずか2秒で売り切れとなることもある。通常、商品の購入を完了させるには、少なくとも【注文ボタン】と【確定ボタン】の2ステップをこなさなければならない。販売を察知して注文完了まで2秒で行うのは、人間にはほぼ不可能な芸当です」

では、なぜ在庫の瞬殺は起きるのか。

「在庫の瞬殺で首尾よく商品を獲得できた多くの購入者の正体は、転売ヤーなどが運営する『自動購入BOT』です。BOTは、架空名義で作られたアカウントや、他人から買い取ったアカウントと紐付けられている。そして、転売ヤーたちはインターネット上の情報を自動で瞬時に察知する【クローラー】というプログラムを持っていて、目当ての商品が販売されるとほぼ同時に、BOTは注文から決済までを瞬時に済ませることができる。購入者の名義はそれぞれ違っていても、商品の送付先は同一のものがいくつもあったりします」