クリスマスプレゼントをターゲットにするも、良心の痛みが
転売でターゲットとする具体的な商材については、「毎年流行が異なるため、自身でマーケティングすべき」とされており、「11月以降には、各おもちゃメーカーが子供向けの人気YouTubeチャンネルにこぞってタイアップ広告を出すので参考になる」などといったヒントが書かれるにとどまっていた。
汎用性の高い情報を欲していたSにとって、クリスマスシーズン限定の転売手法の説明は少々拍子抜けだった。だが、その内容には一定の説得力もある。
「親が子を思う気持ちに便乗していいものか」
マニュアルを読み進める中でSの脳裏にはそんな思いも浮かんだ。しかしSの疑問をかき消そうとする言葉が用意されていた。
「クリスマス前に転売行為で、ある玩具が品薄になれば、サンタクロースを信じる子供の夢を傷つけることになるのではと心配される方もいるでしょう。しかし、一方ではあなたが転売する玩具によって、守られる子供の夢もあるのです」
Sはその強引な詭弁に笑ってしまったが、実践してみることにした。少なくとも、情報商材に支払った9000円は取り返さなければならない。
アニメのキャラクターグッズと液晶付きの電子玩具を仕入れる
Sは11月を前に、それまで全く無縁だった子供向けYouTubeをいくつもチャンネル登録し、動画で紹介されている玩具を調査した。そして某アニメのキャラクターグッズと、液晶付きの電子玩具を商材として扱うことを決める。11月の時点では、いずれも十分に在庫があるようで、一部のECサイトでは5~10%ほどの割引価格で販売されていた。それぞれ10点ずつ購入。仕入れに要した金額はおよそ14万円だ。
これが一体、いくらに化けるのか。もちろん、PS5ほどの儲けになるわけはないと思いつつも、かすかに期待を膨らませてクリスマスシーズンの到来を待った。
Sは当初、すべての商品を定価の約2倍の価格でメルカリに出品するつもりだった。
ところが12月15日の時点で、すでにそれ以下の価格で出品されているのを見つけた。そこで予定を変更し、定価の約1.5倍の値段で出品した。
結果、12月22日までに、20点の商品のうち16点が売れる。これでその年のクリスマス転売プロジェクトは、「店じまい」の予定だった。それ以降に落札されても、クリスマスイブ配送が間に合わない可能性が高いためだ。マニュアルにも「販売後に配送が間に合わないとトラブルになる恐れがあるため注意が必要」と記されていた。