「虎に翼」の最後で「尊属殺重罰規定違憲判決」が描かれる驚き
まさかこの大詰めに来て、「尊属殺重罰規定違憲判決」をぶっ込んでくるとは。
「虎に翼」が残り3週になったところに、父親を殺したという美位子(石橋菜津美)という女性が登場し、いきなりデカいネタを放り込んできたことに驚いた。どうやら制作陣は戦後の法制史において、重要なポイントは全部触っていくつもりらしい。
もともと原案ともいえる清永聡さんの『家庭裁判所物語』を出版後すぐ手に取り、感銘を受けていた。それが朝ドラ「虎に翼」に。毎日欠かさず、多いときは1日朝昼2回、このドラマを堪能している。ドラマへの評価は観ている人によって違うだろうが、私は戦後日本の国造りに懸けた人々の物語として楽しんでいる。と考えると、「尊属殺事件」に触れるのはむしろ当然かもしれない。ただ最終週まで引っぱるとはまた驚きではあるが。
私は戦後日本に憲法が果たした役割を考えるために、重大事件の現場を訪ね歩いた取材経験がある。「尊属殺事件」も担当弁護士にインタビューし、現地を訪れて、事件当時の記憶を止める人に証言をもらった。そこで僭越だが、「尊属殺事件」とはどういう事件だったのか、ドラマと実際の異同、私なりに考える最終週の見どころを書いていきたい。
昭和43年に起こった「性虐待された娘が父親を殺した」事件
「虎に翼」では事件は東京都内で発生したことになっているが、実際は栃木県某市で起きている。ドラマでは事件の一報を知らせる小さな新聞記事の映像が一瞬映っているが、あれは固有名詞をのぞいて実際の朝日新聞地域版の記事の文章をなぞっている。記事は新聞の縮刷版には掲載されていないので、私は片道2時間近くをかけて地元図書館までいってコピーしたのだが、制作陣はどうしたのだろう。どっちにしろそのこだわりに気づく人は全国に10人もいないと思うので、せめて私からでも拍手を贈りたい。
事件は1968(昭和43)年10月5日に起きた。
女性A(当時29歳)は14歳のころから実父のXより性的暴行を受けていて、5人の子どもまで産んでいた(ドラマでは2人)。そのうち2児は死亡し、3児は成長。実母はその事情に耐えられなくなり家を出ていた。