結婚すると別姓が認められないから、選んだ愛の形は「事実婚」
「民法第750条……。夫婦になれば、どちらかの名字が変わる」
「どちらかの名字は名乗れなくなるということでしょ。個人の尊厳や平等とかけ離れてはいないかしら?」
「はて? どうして私たちの名字が変わる前提なの」
今から約70年前、昭和31年(1956)ごろを舞台にしたとは思えないほど、女性にとってはリアルなテーマだった。女性最初の裁判所長・三淵嘉子をモデルに、寅子(伊藤沙莉)が法曹界で道を切り開いていく様を描く「虎に翼」(NHK)。寅子は、ひとり娘をもうけた最初の夫・佐田優三(仲野太賀)を戦争で亡くした後、同じ裁判官の星航一(岡田将生)と心を通わせ交際する。だが、いざ航一からプロポーズされると、兄嫁で親友の花江(森田望智)をはじめ、家族や友人から当然、女性の自分が姓を「星」にすると思われていることに「はて?」と疑問を持つ。
夢の中で、現在の自分と、最初に結婚する前の「猪爪寅子」だった自分、結婚直後の「佐田寅子」、そして、再婚して姓を変えた場合の未来の自分「星寅子」が集合して、分身同士の争いのように意見を戦わせるシーンも話題になった。最初の結婚は、弁護士として社会的な信用を得たいからという狙いがあり、対外的に既婚者とわかってもらうため、むしろ姓を変えたかった寅子。しかし、その後、夫に死なれ、佐田姓のまま裁判官としてキャリアを積んできた。
最新データでも結婚した女性95%が姓を変えている
そこで再婚して姓を変えてしまうと、仕事を頑張ってきた自分が消えてしまうような気がする。しかし、未来の自分は「初代最高裁判所長官の息子の妻という肩書も手に入るのよ。社会的地位も上がるんだから」「つべこべ言わずに、星寅子になっちゃいなさいよ。それで丸く収まる」と現実的なメリットを挙げて、結婚をけしかけるのだった。
そもそもなぜ女性の方が姓を変えると思われているのか。男女は平等であり、民法でも「夫または妻の姓を名乗る」と定められているのに……。これは、多くの女性が結婚するときに抱いた疑問だろう。現在でも2022年(令和4)に結婚した男女のうち95%で、妻が夫の姓に変更している(図表1)。そのうち旧姓使用を希望する人は39%、4割もいる(図表2)。