憲法訴訟とは、個人が国相手にいくさを仕掛けられる手段

大貫弁護士の手記に寄ればそれ以降、全国の地裁で年平均34件の合憲判決が積み上がっていたという。しかも当時、最高裁で違憲無効と判断された法律は一本もなかった。山田轟法律事務所はそのような状況の中での戦いなのである。壁に憲法14条を大書した事務所としての存在意義を懸けた挑戦だ。私は憲法訴訟とは、追い詰められた個人が国相手に大いくさを仕掛けられる唯一の手段であると思う。

一審判決が刑法200条は違憲無効、過剰防衛により刑の執行を免除する判決。二審の東京高裁では逆に刑法200条は合憲、懲役3年6月の実刑判決という逆転有罪の判決が出た。そして最高裁へ、という流れである。

岡田将生演じる航一のように、被告に心を寄せた調査官

第25週では、最高裁調査官である航一(岡田将生)が最高裁長官である桂場等一郎(松山ケンイチ)に尊属殺事件を受理するよう説得する。実際に調査官と長官の間でそのようなやりとりがあったのか私の取材ではわからない。だが、実際に被告(A)の境遇に心を寄せた調査官はいたようである。

「ふつうなら(調査官による)形式的に1回ぐらいしか聞き取りしないのに、何回か話を聞いてくれました。その聞き方も非常に親切でね、あ、これは(合憲から違憲へ)判例を変更するかもしれないと目の前が明るくなるような気持ちでした」(大貫弁護士)

最終週で私が見どころと楽しみにしているのが、最高裁大法廷における弁護人の弁論である。大貫弁護士が「何度も練習した」という実際の弁論をかいつまんで紹介する。

《被害者(=X)は十四歳になったばかりの純真な被告人(=Aさん)を(中略)暴力で犯したばかりか、爾来十五年も夫婦同様の生活を強いて被告人の人生をじゅうりんする野獣に等しい行為に及んでいるのであります。
(中略)又被害者の感情の中には、被告人に対して既に子としての愛情は片りんもなく、妻妾としての情感のみであったのであります。
(中略)ここに至っては被害者は父親としての倫理的地位から自らすべり落ち、畜生道に陥った荒れ狂う夫のそして男の行動原理に翻弄されているのであります。刑法二〇〇条の合憲論の基本的理由になっている『人倫の大本・人類普遍の道徳原理』に違反したのは一体誰でありましょうか。
(中略)かかる畜生道にも等しい父であっても、その子は子として服従を強いられるのが人類普遍の道徳原理なのでありましょうか。本件被告人の犯行に対し、刑法二〇〇条が適用されかつ右規定が憲法十四条に違反しないものであるとすれば、憲法とは何んと無力なものでありましょうか》