進学実績のある「いい高校」に通っているが、なぜかしっくりこない。そんなときはどうすればいいのか。鈴木元太くんは高校1年のとき、横浜の進学校から、島根の町内唯一の公立校に移った。受験には不安があったが、その後、東大合格を果たし、都市工学を学んでいる。いまジワジワと広がる「地域みらい留学」という取り組みについてリポートする――。(第2回/全4回)
スーパーサイエンスハイスクールを1年で退学
城下町の風情を残す白壁、水路を悠々と泳ぐ鯉。文豪・森鷗外の出身地としても知られる津和野は、「山陰の小京都」とも言われる美しい町だ。島根県の山間にあるこの小さな町に、鈴木元太くんがやってきたのは2016年のことだ。
元太くんはもともと北海道出身。中学のときに親の仕事の都合で横浜に引っ越したが、島根県とは縁もゆかりもなかった。彼をこの土地に導いたのは、地方の公立高校への越境留学を推進する「地域みらい留学」である。
じつは元太くん、津和野高校に入る前は、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校に通っていた。スーパーサイエンスハイスクール、科学技術人材育成重点枠指定校、スーパーグローバルハイスクールに指定され、最先端の教育を行う高校である。「みんなの高校情報」によると偏差値68という難関校だ。そこをあえて1年で退学し、山間地域の高校に再入学する道を選んだのである。
傍目にはドロップアウトのように見えたかもしれない。でも、けっしてそうではない。なにしろ彼は津和野で高校生活を送ったあと、東京大学工学部に進学するのである。なぜ彼はそういったユニークな進路を歩むことになったのか? それを理解するカギは“越境体験”にある。