親元を離れて地方の高校に進学する「地域みらい留学」を選ぶ人が増えている。2019年の開始当初の入学生は218人だったが、2023年4月には744人となっており、参画する学校数も当初34校だったものが来期には130校以上となる見込みだ。「地域みらい留学」はどのようにして始まり、何をめざしているのか。発起人である岩本悠さんのインタビューをお届けする――。(聞き手・構成=ルポライター・柳橋閑)(第3回/全4回)
始まりは学生時代の「越境体験」
――「地域みらい留学」はどのように始まったのでしょうか。
【岩本】僕は大学卒業後、ソニーで人材育成の仕事をしていたのですが、自分の個人的なプロジェクトとして、「ゲンキ地球NET」という団体を運営していたんです。
学生時代に学ぶ意味を見失い、1年間休学して、世界中を旅したことがありました。このときに現地のNGOや国際協力関係の活動に参加させていただいたのですが、そこで日本で何不自由なく生きてきた自分には想像できなかった貧困や戦争の傷跡など、たくさんの理不尽を目の当たりにし、常識が崩れる経験をしました。
同時に自分が無力で何もできないことを痛感したんです。早く恩返しができるように成長したいと思いながら帰国し、大学で授業を受けたら、まったく違って聞こえてきて驚きました。「こんなにおもしろい話をしてくれていたのか!」と。内発的な学びの動機ができて、意欲に火が付くと、同じ学校、同じ教員でも、まったく見える世界が変わる。これは大きな発見でした。
以来、「越境体験」や「教育」が僕の人生の大きなテーマになりました。同じような経験を、もっと若い人にもしてほしいと、当時は「流学」という言い方をして、学生が越境経験をするための奨学金を立ち上げたり、途上国に学校をつくったり、そういう活動をやっていたんです。
そこに島根県にある海士町から「出前授業をやってほしい」という依頼が舞い込んだのが、人生の転機になりました。ソニーを辞めて島根に移住し、いまの地域みらい留学につながる「高校魅力化プロジェクト」(※)をコーディネーターとして始めることになったんです。
※島根県の島前エリア3町村(海士町、西ノ島町、知夫村)の町村長、議長、教育長、中・高の校長、PTA会長などが役員となり立ち上げたプロジェクト。