コロナ禍が続くなかでも動き続ける世界

コロナ禍によって市場環境は一変してしまった。その変化の方向や大きさは、社会の領域によって異なる。しかし、あらゆる企業や組織において、各種業務のハンドルやギアを切り換える必要が次々に生じてきたことに変わりはない。

ターナー「嵐の中のオランダ船」
海が荒れ、予想外の天候に巻き込まれたときには、平時の戦略計画型の行動は通用しない――ターナー「嵐の中のオランダ船」(1801)、ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵(画像=J. M. W. Turner/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

だからこそ今、俊敏なマーケティングが求められている。ビジネスについていえば、ニューノーマルの到来によって世界が停止してしまったわけではない。人々の往来などが困難になったことから危機に直面しているビジネスがある一方で、各種の特需もある。こうした風の向きや強さは、刻々と変化していく。感染対策の充実やワクチンの接種が進んだり、新たな変異株が生まれたり、世界の各地域での感染状況が変化したりするとともに、人々のあいだに新たな期待や評価が生まれ、欲求や行動の変化が生じていく。マーケティングはこの変化に応えていかなければならない。

サウスカロライナ大学教授のカルティーク・カレイナナムらは、コロナ禍のもとでのマーケティングには、素早く行動することの重要性が増していると指摘する(*1)。局面の変化は市場の常だが、コロナ禍によってその速度と影響力が増している。マーケティングにおける俊敏さの重要性が高まっている。

街のあちこちで目にする新規出店

2020年の春から始まったコロナ禍では、都市の居酒屋やファミリーレストランなど、飲食店の閉店が各所で相次いだ。神戸市内の筆者の住まいの近隣でも、同年の春から夏にかけて、商店街やショッピングモールなどでシャッターが下ろされたままとなり、張り紙などで閉店を知らせる店舗が目についた。街の急激な変化を寂しく思っていた。

しかしこれは、一時の出来事だった。続く時期に目にすることになったのは、コロナ禍で生じた街の空きスペースへの新規出店である。これは個人店やローカルチェーンだけの動きではない。同様の展開は、全国的に事業を行う大手飲食チェーンのあいだでも相次いだ。