がん闘病中の母親をケアするべく50代独身女性は要介護の父親をある施設に入れた。ところが、これが大ハズレ。父親が失禁していてもズボンや下着を取り替えず、「洗濯では臭いが取れないので、寝具をすべてクリーニングへ」「尿臭がすごいから芳香剤を買って」と命じるなど、気遣いや思いやり、プロ意識のかけらもない言動のオンパレードだった――。
病院内を車椅子で移動する高齢男性
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「余命半年」70代母は甲状腺がんのあと、大腸と肺のがんがみつかった

東北地方に住む南野朱里さん(仮名・50代前半・独身)の40代は壮絶なものになった。

父親は短期間に3度の転倒で頭を打つなどして要介護状態となり、会話もおぼつかない。母親は甲状腺がん手術が成功したかと思いきや、直後に大腸がんや肺がんも見つかり、余命半年の宣告を受けた。

ダブル介護に直面した南野さんは、77歳になった父親の施設入所を検討することにした。すでにデイサービスは利用していたが、もともと気難しい性格で、75歳の母親以外の世話をなかなか受け入れない。その母親が大腸と肺のがんで入院するとなると、南野さん一人で父親の介護を自宅でするのは不安だった。

母親が入院するまでに入れる施設を探そうと思い、父親のケアマネジャーに相談すると、「ちょうど小規模多機能ホームに1室空きが出た」という。渡りに船、と南野さんは即入居の申し込みをした。

「苦痛の始まり」要介護の父が入った介護施設は完全なハズレ

「当時の私は、介護施設にはどんな種類があって、どういう違いがあるかなど、全く知らないまま、父に合っているかどうかまで考える余裕もなく、ただ空いている所に入れてしまいました。私は施設が決まり、安心したのですが、それが苦痛に満ちた生活の始まりになるとは、想像もしませんでした」

南野さんが父親に「お母さんががんになって、手術しなきゃいけないの。私一人ではお父さんを看れないから、施設にお願いすることになるからね」と言うと、父親は「いつまでだ?」と訊ねる。南野さんは、「お母さんが良くなるまで」と答えた。

母親は、2018年7月に大腸がんを、9月には肺がんの手術を受けた。「リンパにも転移があり、人工肛門になる可能性もある」と言われていたが、リンパの転移は大腸を多めに摘出することで解決し、人工肛門も免れた。

しかし、術後の傷が痛むらしく、気丈で明るい母もさすがに「痛い痛い」と時々こぼした。肺がんは左右に1つずつの転移があり、当初は両方とも摘出する予定だったが、片方は残し、抗がん剤治療に変更。最初の1週間は入院しての治療だったが、次は通院で3時間。診察や血液検査もあるため、一日病院漬けだ。その後、だんだん3週間に一度、1回30分程度のペースで治療を続けることになった。