たったひとりのW介護を支えてくれた恩人とは
南野さんは、父親の仏壇に毎日手を合わせる。この仏壇を買いに行ったのが、母親と姉と3人でした最後の外出だった。
現在母親は、経過が良好なため、抗がん剤治療は行っていない。糖尿病の通院は欠かせないが、つえがあれば歩けるまでに回復。南野さんは約3年前にパートも辞めてからは、かねて夢だった絵手紙教室を実家で開き、2人の生徒を教えている。
10年以上も両親の介護をひとりで続けてきた南野さんだが、感謝したい人も多いという。
「これまで母の弟夫婦には、父が卓球で倒れた頃から随分お世話になりました。私は車の運転ができないので、叔父が病院までの送迎を手伝ってくれて、本当にありがたかったです。そして、母のケアマネジャーさんにはとても救われました。私の愚痴や相談を気が済むまで聞いてくれて、最後には必ず、『大丈夫だから』『何とかなるから』と励ましてくれました」
最もつらいとき、南野さんは、「自分ばかりがつらい」「自分は一人で頑張っている」と思い込んでいた。しかしケアマネジャーは、「一人じゃない。みんなが助けてくれているから今がある」と教え諭してくれた。
「介護は、介護者が一人きりでは破綻します。人は一人では生きていけないし、必ず誰かにお世話になって生きています。それを冷静に理解できていれば、『一人で介護しよう』とは思わないのではないかと思います。私は初めから、『一人で』とは思っていませんでしたが、それでも精神的に追い詰められました」
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筆者はこれまで30例以上、ダブルケアやシングル介護の当事者を取材してきたが、いずれのケースもキーパーソンに負担が偏っていた。南野さんの場合は姉が介護を拒否したわけではなく、南野さんの生活費や実家のリフォーム代を負担するなど協力的だったが、やはり主に介護を担う人にかかる身体的・精神的負担を分散しなければ、最悪の場合は総倒れとなり、家族全員が不幸な末路をたどりかねない。
南野さんはこう話す。
「私の経験上、親が介護者の言うことを聞かない場合が一番困りますね。特に父親に多く、介護している母親の方が先に倒れそうなケースをよく見ます。友人の両親もそのケースで、私は、知っている限りの知識を伝えたり、良い病院や施設を教えたりしていますが、やはり家庭環境が違うと、別の家庭環境で育った者がアドバイスしても、なかなか聞き入れてはくれません。なので、私は友人の話をずっと聞いています。私自身、ケアマネジャーさんに聞いていただいたおかげで、何とか持ちこたえられましたから。電話で4時間話した友人は、とてもスッキリした様子でした」
もちろん、話を聞いてもらうだけでは状況は変わらない。それでも、日頃から積み重なった悩みや愚痴を吐き出せる開放感や、それを受け入れてくれる仲間がいる、「一人じゃない」という安心感が、常に不安やストレス、プレッシャーに晒されている介護者を救うのかもしれない。
「根本的な解決ではないかもしれませんが、(介護のキーマンとなる)相手が『また頑張ろう』と思えるかどうかが、大事ではないかと思います」