「娘さんから言い聞かせて」「尿臭がすごい、芳香剤を買って」
一方、2018年6月に小規模多機能ホームに入所した父親は、介護拒否が激しくなっていた。要介護度は当初の2から3になった父親は、入所してからトイレの失敗が増え、施設の職員がズボンや下着を取り替えようとすると、激しく拒否。入浴に関しても同様だった。
南野さんを困惑させたのは介護施設の職員の対応だった。ことあるごとに「娘さんから言い聞かせて」「尿臭がすごいので、芳香剤を買ってきて」と電話をよこし、ときには、父親本人に電話をさせることまであった。
当時、施設入所が初めてだった南野さんは、言われるままに芳香剤を買ってきて、職員に頭を下げた。
「父は、恥ずかしいという気持ちだけは、最後まで抜けきれずにいて、トイレや入浴は、母が手伝うのさえ嫌がっていました。私も、今なら施設の対応がおかしいとわかりますが、その頃は初めてのことだらけで、全てこちらが悪いんだと思っていました。でも、介護職の友人に聞いたら『何を言ってるのよ、プロの介護職員がそれくらいできないでどうするの』と、あきれ顔。家族に対する気遣いや思いやり、プロ意識のない、何でも家族に頼る施設でした……」
施設の職員は、父親の介護拒否がひどいからと言って、父親が失禁していてもズボンや下着を取り替えようとはしない。南野さんと母親が週に1回面会に行くと、いつも部屋は尿臭がきつく、「洗濯では臭いが取れないので、寝具をすべてクリーニングへ出してください」と施設での洗濯を断られてしまう。南野さんが着替えを頼んでも、「無理やりやると虐待になる」と言って取り合わなかった。
小規模多機能ホームの職員の対応に苦慮した南野さんは、別の施設を探し始め、母親のケアマネジャーから「評判が良い」と聞いたところを見学したうえで申し込み、空きが出るのを待った。
2019年3月末、母親のケアと小規模多機能ホームの対応に追われ、南野さんは悩んだ末にパートを辞職することにした。
やむなく移った有料老人ホームもハズレ「退去してください」
4月には、申し込んだうちの1つの有料老人ホームに空きが出たので、そちらへ父親を移すことに。ところが、その施設もハズレ。小規模多機能ホーム同様かそれ以上に、父親に関する苦情を南野さんに言ってくる施設だった。
「母ががんになったため、自宅で看ることができないから預けていると事情をわかっているはずなのに、入所翌日から毎日のように施設から苦情の電話がかかってきて、その度に施設へ飛んで行かされていました。こちらが何かを言うと必ず反論され、最後には『うちではもう看られないので退所してください』と言われました。介護のプロとしての責任や仕事を放棄しているように見え、心ない職員の対応は理解に苦しみました」
父親は、「いつまでここにいればいいんだ!」「家に帰りたい!」「俺は一人で何でもできる!」と繰り返す。それは施設の職員に対しても同じようで、父親がそう言って暴れると、施設の職員は「すぐに来てなだめてください」と電話をよこした。
「父がこういうことをしたとか、言うことを聞かないとかを私たち家族に伝えて来るのですが、父がそうなるには、その前段階があると思うのです。その説明は一切せず、自分たちが父からされたことでこちらを責められても、家族としてはただ謝るしかありません」
やはりこの施設でも「家族から言い聞かせてください」と言われた。
父親は小規模多機能ホームにいた頃より状態がさらに悪くなり、要介護4になった上、些細なことで興奮し、手がつけられなくなっていた。そして3週間目には、施設側から「退去してください」と言われる。「次が決まっていない」と伝えても、施設側は、「ここまで症状が進んでいるとは、情報不足だった」と言って取り付く島もない。これには普段温厚なケアマネジャーも「情報があるなしの問題ではない!」と憤慨。何とか次が見つかるまで時間をもらうことができたが、施設探しは難航した。
困り果てた南野さんは、父親が以前、脊髄梗塞になったときから10年近く世話になっている主治医に相談。主治医は、母親ががんの治療中であることも把握している。「3カ月間の入院中に、次の施設などを探してくださいね」と断った上で、主治医は同じ病院の精神科の受診を勧め、父親を精神科へ連れて行くと、その日のうちに入院となった。