クラフトビール「よなよなエール」などを販売するヤッホーブルーイングは、コロナ禍で打撃を受けたビール業界で、異例の増収を続けている。社長の井手直行氏は『トヨタ物語』(日経BP)を読んで、「トヨタ自動車と僕の会社は似ている」と感じたという。その理由を、ノンフィクション作家の野地秩嘉氏が聞いた――。

※本稿は、野地秩嘉さんのnote「ヤッホーブルーイング井手直行社長が読み解く「トヨタの強さ」|『トヨタ物語』続編連載にあたって 第8回」の一部を再編集したものです。完全版はこちら

業界全体が苦しむ中、大幅な増収を達成

新型コロナウイルスの蔓延はビール業界に大きなマイナスの影響を及ぼしました。しかし幸いにも私たちの会社は大幅な増収を続け、現在も業績は非常に好調です。

正確には、コロナ禍で需要が減少したのは地元・軽井沢の観光需要、公式ビアレストラン「よなよなビアワークス」などの飲食需要、日本以上に被害が甚大な輸出事業などでした。ただ、それを大きく上回る巣ごもり消費によるスーパーやコンビニ向け商品の店頭需要、そして直販の通販需要があり、大幅な増収となっています。

私たちの会社のコロナ対応としては、製造業なので最低限の製造、出荷などに関わる現場作業スタッフのみ出勤を続け、それ以外、全社員の約3分の2ほどは在宅ワークに切り替えました。

好不調の事業の傾向が見えてきてからは、好調な市場に人やお金の経営資源を集中し、不調の市場は製品アイテムを縮小して余剰在庫リスクを一気に減らしながら、経営資源の投入も最小限に留める大胆な判断を行いました。

非常事態なので今までの常識を捨てて、我々自体が「変化」することで何とか乗り越えてきました。

85年前は、トヨタだってベンチャーだったんだ

トヨタ物語』は仕事の合間とか移動中、夜に読み、いいなあと思ったところのページを折ったりもして少しずつ読み進めました。そして折に触れて、気に入ったところを読み返しています。読み終えるまでずーっと鞄に入れっぱなしだったので、きれいな表紙がくすんで破けてしまいました(苦笑)。

表紙カバーが破れている本
表紙カバーが破れている本

トヨタ自動車といえば、僕が物心ついたときからすでに大会社でした。自分がビジネスをやり出してトヨタのすごさがわかったときにはもう世界一になっていて。同じ製造業ではあるけれど、あまりに違いすぎるなという目で見ていたんです。

しかし、読み始めると、いつの間にかトヨタの物語に、自分の会社と自分の物語を重ね合わせて読んでいました。当たり前と言ったら当たり前なんですけど、トヨタも85年前に起業したときはベンチャー企業だったんですね。僕らベンチャー企業の人間にとってみれば、トヨタだってベンチャーだったんだ、俺たちだって、頑張っていればいつかはトヨタみたいになれると感じられることが嬉しかった。