新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第19回は「危機管理人はどう生まれるか」——。

※本稿は、野地秩嘉『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

米ラスベガスで開かれた世界最大のIT家電ショー「CES 2020」で実験都市計画について発表するトヨタ自動車の豊田章男社長
写真=dpa/時事通信フォト
米ラスベガスで開かれた世界最大のIT家電ショー「CES 2020」で実験都市計画について発表するトヨタ自動車の豊田章男社長=2020年1月6日

トヨタの危機管理は人材教育にもなる

危機管理にかかわったトヨタの人に話を聞くと、口をそろえて「危機管理に参加したり、支援に行くと、自分自身が成長する」と答える。

人に教えるには自分が勉強しなければならない。支援に行くと、現場でさまざまなくふうを考えなければならない。それは講義を聞いて知識を得るよりも、はるかに役に立つ。知識は本から学べるけれど、スキルは体に記憶させるしかない。

思えばトヨタの危機管理は人材教育にもなっている。

この点について、危機管理人の朝倉正司もうなずく。

「僕は、性善説になるかもしれないけれど、人はみんな人を助けるのが好きなんだと思う。災害や感染症の蔓延で出社できなくなる。仕事ができなくなって、ぼんやりしているスタッフに『さあ、現場に行って直してこようぜ』と言ったら、みんな目が輝くんですよ。自分の気持ちにもいいし、世の中のためになったと感じるんでしょうね。帰ってきてから、バリバリ仕事をするようになる。金がかかる人材教育のセミナーなんかに行くよりも、災害の支援で汗を流して働いた方がよっぽどいいんだ」

災害や理不尽をどう魅力的なことに変えるか

トヨタは黙々と支援をしている。支援に人を出している。一方通行にも見える。だが、人を助けることは自分にも跳ね返ってくる。情けは人の為ならず、である。

英語のことわざに「人生が酸っぱいレモンを与えるのならば、レモネードを作れ」というものがある。

酸っぱいレモンにかじりついて、酸っぱさを嘆いていても始まらない。それよりも酸っぱいレモンにほんの少しの砂糖を加えれば子どもたちが喜ぶレモネードに変えることができる。

危機管理、支援とは酸っぱいレモンにほんの少しの砂糖をまぶすような行為だ。災難や理不尽なことには創造的なくふうで対処して、魅力的なことに変える。そう信じることから始める。