※本稿は、野地秩嘉『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
工場以外の事務職は在宅勤務に
トヨタの生産現場では危機管理人が毎朝、大部屋で会議を開き、サプライチェーンをつなげる努力をした。一方、事技系と呼ばれる工場以外で働く、技術、経理、人事、調達、営業、情報システム、広報、宣伝といった職場は職場での密を避けるために在宅勤務を増やした。
具体的には次のような施策を行っている。
B 職場での3密を防ぐために、時差出勤と部分的在宅勤務の推奨。なお、4月のある時期、名古屋地区、豊田本社の従業員の一部に関しては日進にある研修センターのなかにサテライトオフィスを設けた。これはパソコンがない、通信環境が不安定な従業員のためのものだったが、現在は閉鎖された。
C 職場によっては事前に出社率を把握し、一定の目標値を定めて在宅や勤務場所の変更を指示する。
海外出張は「上司からも家族に丁寧に説明」
次に国内外への出張、海外赴任、帰任の考え方はかなり厳しいと言える。
B 日本からの海外赴任については2020年10月までは慎重に判断し、ほぼやめていた。これは海外出張も同じである。
海外間の出張については各地域の判断だけれど、不要不急の出張は禁止。要するに、世界のどこでも在宅勤務が進み、会議アプリを利用して仕事をしていることになる。
C 日本から海外工場の支援に行った従業員は休日もホテルから出ないようにする。渡航前には現地の状況、生活環境を会社側上司からも家族に丁寧に説明して、従業員だけでなく、家族の不安も払拭する。
ここで大切なことは「家族に対しての説明」だ。新型コロナ危機にある現在、海外出張、海外赴任をする時、不安なのは本人だけでなく家族も同様だ。まして、小さな子どもがいる場合、残る人たちは心細いだろう。危機管理とは、そこまで細かい心遣いをすることでもある。
最後に付け加えると、食事会、親睦会といったものはほぼ行われていない。行われる場合でも多人数のそれはありえない。せいぜい、4人までではないか。
思えば通勤生活はリーンでスリリングだった
どこの会社でも変わらないが、新型コロナ危機以前、公共交通機関を利用する通勤は日常の風景だった。事務系の仕事に関する限り、フレックスタイムは導入されていても、誰もが毎日、自宅とオフィスを行き来していた。
小さな子供がいるママワーカーは朝早く起きて、子どもを保育園に預けて、混雑した電車、バスに乗って会社へ行く。帰りはまた混雑した電車、バスに揺られて、駅からは自転車に乗って子どもを迎えに行く。子どもと一緒にスーパーで買い物をする。
うちに帰ったら家族の食事の用意をして、食べ終わったら洗濯と掃除もする。そんな毎日を送って、しかも通勤時間が一時間以上という人が平均的だというのだから……。子どもの送迎やスーパーの買いものは時には夫がやってくれることもある。しかし、これまでの勤務体制で負担が大きかったのは小さな子供がいるママワーカーだった。
都市でなければ自動車で子どもの送り迎えをする。それであっても負担の大きさは変わらない。新型コロナ危機以前の通勤生活はリーンな生活で、スリルとサスペンスにあふれていた。