日本の医療費は約43兆円。しかもこの10年間で9兆円も増えている。どこに問題があるのか。日本総研の藤波匠上席主任研究員は「原因は高齢化だけではない。医療の高度化も大きな要因であり、その恩恵は若い人ほど大きい。医療費を減らすことより、日本の医療を『儲かる産業』に変えることを考えるべきだ」という——。

※本稿は、藤波匠『子供が消えゆく国』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

シニアの患者とその家族に話しかける医師と看護婦
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新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大は、依然として予断を許さない状況にある。今後の展開を左右する最大の要因の一つが、ワクチンと治療薬の開発・実用化である。米欧日の製薬会社が開発にしのぎを削っているが、日本企業が先頭集団にいるとはいいがたい。

一方、医療費については、急速に進む少子高齢化を念頭に、政策的に抑制傾向にあるが、結局は縮むパイ(保険料)の取り合いに過ぎず、ここから生まれるのは世代間の対立という不毛な争いである。

もし日本が素早くワクチンや新薬を開発できれば、各国政府の価格政策にもよるが、莫大な収益を得ることができる可能性がある。その収益を医療費に回す制度設計も可能である。そこで本稿では、政策の視点を医療費の抑制・パイの奪い合いの調整から、医療を国際競争力をもつ産業へ成長させるという視点に転換することで、わが国の医療費負担を軽くできるということを論じてみたい。

医療費抑制はわが国が抱える喫緊の政策課題

かねてより、わが国では年々医療費が増加し、その抑制・削減が一つの大きな政策課題であった。わが国医療費は、2007年からのわずか10年間で9兆円近く増加し、およそ43兆円となった。高齢化の進展が、医療費の増大の主たる要因であるとの指摘がある。進行する少子化を踏まえれば、医療費が増加するにしても、高齢者向けの医療費が際限なく増えていくよりは、妊娠、出産にかかわる分野の公的支援を増やしていくべきであるという考え方には、同意する人も多いだろう。