しかし、筆者には、この考え方が限られたパイを前提とした分配の議論に過ぎないように感じられる。もちろん、非効率な仕組みや一部の企業が不当な利益を上げているような状況があれば、積極的に改善すべきであることは言うまでもない。しかし、単に限られた財源の分配の議論ばかりでは、医療を産業としてとらえたとき、その成長を見込むことはできない。

そもそも、医療費はなぜ増加しているのであろうか。もちろん、欧米諸国に比べて極端に多い病床数が、必要のない人まで入院をさせるような過剰な入院需要を生んでいるという指摘や、後発薬(ジェネリック薬)で十分な患者にも、高価な新薬が処方されるというような非効率さが各所に残っていることは否めない。

しかしここでは、医療費の議論における隘路あいろに入り込むことを避けるため、少し大きな視点で、医療費の増加要因を考えてみる。初めに、高齢化の進展による医療費の増加という指摘に対する真偽のほどを確かめるところから入ってみよう。

高齢化だけが医療費増加の要因ではない

医療費の増加の要因を明らかにするため、わが国の過去10年間における医療費の変化について、要因分解分析を行った。ここでは、医療費の変化を「人口要因」、「高齢化要因」、「医療の高度化要因」に分ける。「人口要因」は、人口の増減による医療費の影響を見ている。人口減少局面では、総医療費の押し下げ要因となる。

「高齢化要因」は、とりわけ高齢者の医療費が大きな割合を占めることから、人口の年齢構成の変化による総医療費への影響をみている。なお、後期高齢者の人口比率は、国による人口推計の結果、2060年頃まで上昇することが予見可能であり、この要因は今後40年間にわたって、総医療費の押し上げ要因となる。

「医療の高度化要因」は、正確には1人当たりの医療費の変化をみている。例えば後発薬で十分な患者に高価な新薬が処方されることによって医療費が増えることがあれば、この要因に現れることになる。しかし、現状では、後発薬の積極的な利用や病床数の削減など、非効率や無駄を省く努力が各所で取り組まれており、それが総医療費を押し上げる主因として顕在化しているとは考えにくい。