近年、一人当たりの医療費が増加しているのは、多くの場合、新しい医薬品や医療機器、高度医療などの導入のほか、医療制度の改正などによるものであると考えられることから、この要因のことは「医療の高度化要因」と呼ぶ。
図表1は、過去10年間における9兆円分の医療費の増加を、上記3要因に分解したものである。9兆円の増加には、高齢化と医療の高度化が同程度貢献していたことがわかる。すなわち、医療費増加の半分の要因は、わが国の人口構成が高齢化することにより避けられない医療費の増加分であり、残りの半分が、医療の高度化などに理由を求めることができるのである。なお、人口要因は、人口が減少局面にあるため、医療費の押し下げに寄与している。
高齢者比率の増加は、わが国における構造問題であり、今後40年間、「高齢化要因」は医療費の押し上げ要因となることが予見可能である。すなわち、差し当たり医療費の問題は、押し上げ効果の半分を占める「医療の高度化要因」を、どのように考えるかということである。
医療の高度化の恩恵は若い世代の方が大きい
まず、どのような主体が、医療の高度化の恩恵に浴しているのであろうか。医療の高度化の恩恵は、病院で診療を受ける機会の多い高齢者が受けているのではないかという見方もあろう。実際、一人当たりの医療費で見れば、75歳以上の後期高齢者は、それより若い世代の数倍の医療費がかかっている。終末期医療に、高度な機器や高価な薬が投入されているのではないかという指摘もある。
しかし、図表2からわかる通り、過去10年間に限ってみれば、一人当たりの医療費の伸び率(年率)が高いのは、高齢者よりも若い世代の方である。すなわち、医療の高度化などの恩恵をより多く受けているのは、実は若い世代であるとみることが可能なのである。一方、高齢者は頻繁に通院しているものの、慢性疾患による場合も多く、いつも高度な治療を受けているとは限らず、一人当たりの医療費の伸び率は低く抑えられている。
こうしたデータをみれば、ことさら医療分野に世代間対立の議論を持ち込むべきではない。高齢者は、それより若い世代に比べ、現状では多額の医療費を使っていることは確かであるが、医療費の伸びに注目すれば、その恩恵は若い世代の方が大きいとみるべきだ。その結果として、例えばがんは治る可能性のある病気へと位置づけが変わり、平均余命の長期化やQOL(生活の質)の向上が図られているのである。