野村不動産と東日本旅客鉄道が共同で推進する国家戦略特別区域の特定事業「BLUE FRONT SHIBAURA」。延床面積約55万平方メートル、オフィスやホテル、商業施設、住宅を含むツインタワーから成る大規模複合開発だ。「空と海、世界へひらかれたこの街で、新しい人と社会の未来をつくりだす」を掲げ、今年2月に1棟目が竣工した同事業は脱炭素の面でも先駆的な取り組みで注目を集めている。今、都市開発や街づくりにおいて、いかなるエネルギーの在り方が求められているのか。野村不動産の松尾大作社長と、今回の事業のエネルギーシステム構築でも重要な役割を果たしている東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)の小西康弘社長が語り合った。

快適性の追求とCO2削減、両立を目指し共創する

【松尾】「BLUE FRONT SHIBAURA」は野村不動産グループとして史上最大規模の開発事業です。あらゆる側面で意欲的な挑戦をしており、「健康と快適性を重視したウェルネスオフィス」と「CO2の大幅削減」の両立も重要なテーマとなっています。

小西康弘(こにし・やすひろ)
小西康弘(こにし・やすひろ)
東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
代表取締役 社長執行役員
1986年東京ガス入社。東京ガス都市エネルギー事業部長、東京ガス執行役員などを経て、2021年より現職。東京ガス常務執行役員も務める。

【小西】多くの再開発では既存の建物よりも規模の大きなものが建てられます。その中でいかにCO2削減を実現するか。これは、法人のお客さまにガスや電気などのエネルギー、その関連ソリューションを提供するTGESにとっても大きな課題です。その上で今、重要なポイントとなっているのが、エネルギーの消費量を減らしつつ、建物や空間の快適性も追求することですが、本事業においては「街区全体でのCO2排出量実質ゼロ」が目指されています。

【松尾】今やカーボンニュートラルは社会的使命ですから、できる限りの手段を講じ、何としても実現したい。中でもそれに向けて導入したエネルギープラント(建物に電気や熱を供給するプラント)は欠かせないものの一つです。

【小西】今回、都市ガスで発電し、同時に発生する熱も活用するガスコージェネレーションシステム(CGS)を採用し、エネルギー効率を高めています。また近年、ICTを活用してプラントを最適制御し、複数の建物に面的にエネルギーを供給するスマートエネルギーネットワーク(スマエネ)も高度化しており、段階的にその仕組みを導入していきます。

【松尾】元々芝浦地区にはTGESさんが管理する地域冷暖房プラントがあり、その既存プラントと新設プラントの連携も今回のポイントでしたね。

【小西】そのとおりです。二つの棟が段階的に竣工する開発では、最適なエネルギーシステムも開発段階によって変化する。そこで複数のプラントを連携してエネルギーを融通できる形にしました。街や施設は変化しますし、エネルギー関連の設備も高効率化します。実は現在のエネルギーシステムにおいて“拡張性”や“柔軟性”は非常に大事な要件なんです。

エネルギー需要の予測やプラントの遠隔操作なども

【松尾】野村不動産グループは「BLUE FRONT SHIBAURA」に47年ぶりに本社を移転することを決めています。新たなワークスタイルの下、事業創発力を高め、複雑化する課題に対応していきたい。まさにエネルギーの問題はその最たるもので、今や開発事業における最優先課題の一つです。

【小西】エネルギー会社にも、単に電気やガスを安定供給するだけでなく、現在その「質」を重視することが強く求められるようになっています。

【松尾】エネルギーを使う人にとって、脱炭素やクリーンであることが重要な価値になっている今、私たちはそれに応えていかなければなりませんね。加えて野村不動産は今、地域や街全体を豊かにする「エリアマネジメント」にも力を入れており、スマエネなどはその観点からもさらなる進展が期待されます。

【小西】スマエネの利点は、例えばオフィス、店舗などエネルギー利用のパターンが異なる建物をまとめ、季節や時間帯による需要の変動に合わせた最適なエネルギー利用を実現でき、分散型エネルギーシステムも効率的に稼働させられることです。また一定規模の需要があるため、再生可能エネルギーや未利用エネルギーも導入しやすい。最近は、建物を利用する人の数や気象情報などからエネルギー需要をAIで予測して設備をコントロールしたり、遠隔制御によってプラントを無人化したりする技術も進化しています。

【松尾】一つの開発エリアには、まさに多様なエネルギー需要が存在します。それをまとめることで、スマエネの効果が高まるわけですね。あと忘れてはならないのはレジリエンスの観点。エネルギーシステムとBCP対策は密接につながっています。「BLUE FRONT SHIBAURA」にも災害に強い中圧ガス導管が引き込まれており、停電時もCGSと非常用発電機を稼働させることで通常の約70%の電力が供給されるようになっています。

BlueFrontShibaura_イメージパース
TOWER S(2025年2月竣工。ラグジュアリーホテル、オフィス、商業施設で構成)、TOWER N(30年度竣工予定。住宅、オフィスで構成)から成る「BLUE FRONT SHIBAURA」。TOWER Sオフィス部分では「ZEB Oriented」を取得済みで、さらに街区全体(TOWERS、TOWER Nおよび外構店舗他)でのCO2排出量実質ゼロを目指す。高効率LED照明や高性能Low-E複層ガラスの採用、人感センサーによる照明の点滅などを行い、CO2排出量を低減。その上で、野村不動産が運営する自社施設等での創電や「カーボンオフセット都市ガス」(ライフサイクルで発生する温室効果ガスを多様なプロジェクトで削減・吸収したCO2で相殺した都市ガス)で対応する計画だ。

「誰もできない、に挑む。」の下、課題解決を支えていく

【小西】TGESの特徴は、機器開発や設備の設計、建設、運営、メンテナンスなどを総合的に手掛けていることです。ブランドメッセージ「誰もできない、に挑む。」の下、各分野で蓄積したノウハウやデータを組み合わせ、法人のお客さまをサポートしています。その中で重視しているのは、単にエネルギーや設備を提供するのではなく、あくまで課題解決を支えること。そうした思いを社内外に発信すべく、一昨年ソリューションブランド「IGNITURE」(※)を立ち上げました。

松尾大作(まつお・だいさく)
松尾大作(まつお・だいさく)
野村不動産株式会社
代表取締役社長
1988年野村不動産入社。2012年同社執行役員。常務執行役員、専務執行役員などを経て、21年より現職。野村不動産ホールディングス代表取締役副社長も務める。

【松尾】とても共感できるお話です。野村不動産も単に建物を建てることが仕事だとは考えていません。住まう人、働く人、訪れる人に寄り添って、快適さや豊かさを提供することが役割であり、それにゴールはありません。TGESさんともこれまで「KAMEIDO CLOCK」や「横浜野村ビル」など多くの開発で協力してきましたが、一つ一つの事業はさらなる挑戦のための大事な通過点だと思っています。

【小西】カーボンニュートラルの分野も、水素と回収したCO2を原料とするe‐メタンなど期待される技術が数多くあり、まさに取り組みに終わりはありません。「BLUE FRONT SHIBAURA」の1棟目でも、「高効率燃料電池システム」から排出されるCO2を回収し除菌水(炭酸次亜水)として利用する日本初の実証試験に取り組んでいます。

【松尾】日本の強みである“繊細さ”を生かすことで、世界をリードする技術革新を起こせる余地は十分ありますね。

【小西】そう思います。それを実現するには、多様な技術、知恵を結集した“価値共創”が重要になる。今後も野村不動産さんをはじめ、多くの皆さんと連携し、信頼されるパートナーとして未来を切り開いていきたいと思っています。

※ IGNITURE(イグニチャー)は、“Ignite(灯す)”と“Future(未来)”を結び付けた言葉。エネルギーの枠を超え、「脱炭素」「最適化」「レジリエンス」に関するお客さまの課題解決を目指す東京ガス・TGESのソリューションブランド。