「理系」が主流だったエンジニアの採用。「文系・未経験から育てていく」という選択肢の確立で、モノづくり産業を支える人材の確保や新たなイノベーション創出への期待が高まっている。この道筋をつくったのが、人材派遣業を展開するスタッフサービス・エンジニアリングだ。「エンジニアになりたい」という夢を実現へと導き、日本のエンジニア不足解消に寄与する、実績とデータに裏打ちされたスキームとは。事業をけん引する山﨑亮氏に聞いた。

――「誰もがエンジニアを目指せる世界へ」。この事業ビジョンが生まれた背景や思いについて教えてください。

山﨑 亮(やまさき・りょう) 株式会社スタッフサービス 執行役員
山﨑 亮(やまさき・りょう)
株式会社スタッフサービス
執行役員
エンジニア領域事業担当
2008年にスタッフサービスに入社。大阪地区の営業としてキャリアをスタートし、水戸、名古屋の統括マネジャー、モノづくり企業が集積する中部・東海地区の統括ゼネラルマネジャーを歴任。派遣スタッフの雇用を守り、安心して働ける居場所を提供するプラットフォームの構築に努める。22年より現職。

【山﨑】スタッフサービスは、事務職の人材派遣をメインにスケールしてきた会社です。2005年、技術職を対象にサービスインしたスタッフサービス・エンジニアリングにおいては、「スピード」や「ボリューム」を強みとしてお客さまや求職者をサポートすることで急激な成長を遂げることができました。

しかし、リーマンショック、コロナ禍といった大きな困難は、スピードと量でしのぐという価値を打ち出すだけでいいのか、培った知見の中から、さらに新しい価値を見つけ出せるのではないかと、われわれのサービスの在り方について改めて考えるきっかけになりました。そうして21年に策定したのが「誰もがエンジニアを目指せる世界へ」という事業ビジョンです。

この「誰もが」という表現に強い思いを込めています。われわれの派遣事業はスピードと量にこだわり続けてきた結果として、豊富な就業機会を創出してきました。その中で「文系の方や未経験の方でもエンジニアとして着実に成長している」ケースが次々と生まれている、そこに新しい価値があることに気付いたのです。

――既成概念にとらわれないエンジニア育成のヒントが見えたのですね。

【山﨑】はい。エンジニアになりたいと希望する人たちの、コミュニケーション能力や協調性といった履歴書や職務経歴書では表現しきれない「ヒューマンスキル」を弊事業部がしっかりとすくい上げてマッチングを図り、就業機会を提供する。そして、派遣という働き方だからこそ可能な就業先A社からB社、C社といったジョブピボットを重ねて実務経験を積み上げながら、目指すキャリアを形成していく。就業先とも連携したこの「顧客協働型育成モデル」は、社会的にもニーズが高まっているリスキリングを実践的に可能にする仕組みともいえるでしょう。

企業のニーズを受け止め、さまざまなスキルや特性を持つ成長意欲が高いエンジニアをマッチングし派遣する。
企業のニーズを受け止め、さまざまなスキルや特性を持つ成長意欲が高いエンジニアをマッチングし派遣する。

日本のモノづくりが衰退傾向にあるともいわれる中、スタッフサービス・エンジニアリングの支援で誰もがエンジニアを目指せる世界をつくることができれば、その先にはきっと今よりも豊かな日本があるはずです。そんな使命感を持って事業を推進しています。

スタッフサービス・エンジニアリングが目指す世界

いつの間にか狭まっていく選択肢「もう一度挑戦できる」機会を提供したい

――エンジニアが不足しているなら、その状況を自分たちで変えようと。

【山﨑】そうです。この使命感には、私自身の「選択できないもどかしさ」を感じた原体験が根底にあります。高校生の時に理系か文系かで迷った結果、文系に丸を付けました。この選択で「将来、理系の職業にエントリーすらできなくなる」とは思っていませんでした。しかし、就職活動を始めて選択肢がいつの間にかどんどん狭まっていたことに気付いたのです。例えば車やバイクに詳しかったり、プラモデルを作るのが好きだったりする人たちが「本当はエンジニアに向いているんじゃないか」と考えても、文系を卒業していると現実的な選択肢にはなりにくいですよね。だからこそ私たちは「スタッフサービス・エンジニアリングに入社すればなりたかったエンジニアになれる」という価値をとても大切にしています。

――意欲や素質があるのに、文系・理系のカテゴライズによって諦めてしまうのはもったいないですね。

【山﨑】私が教員免許を取得して教職を目指していた時期に出会った学生たちは、「すごくキラキラしているな」と思いました。なぜだろうと考えると、やはり夢や目標を持って頑張っているからなんです。スタッフサービス・エンジニアリングにも、かなえたい夢に向かって真っすぐに進み、輝いている派遣社員がたくさんいます。接客業のアルバイトしか経験したことがなかったけれど、今は大手自動車メーカーで図面を作っている。さらにスキルアップして仕事の幅を広げ、半年後にはもっとレベルの高い仕事をしていたい――そんなふうに、うれしそうに目標を話してくれる皆さんを応援することが私自身の「Will」であり、この事業のやりがいです。

スタッフサービス・エンジニアリングが採用するエンジニアの半数以上が文系・未経験の方です。過去に決断できなかったり、なんとなく諦めたりしてきたこと、そこに「もう一度挑戦できる」というモチベーションの引き上げに注力しています。リターン、リトライ、リスキリング、そうした「Re」であふれた世界に、夢をかなえられる事業にしていきたいと考えています。

「2万人の道のり」をデータ化することでどこで何を学んだかを明確にした

――「顧客協働型育成モデル」に対する反応などはいかがでしょうか。

【山﨑】就業先である企業の皆さまも「文系や未経験の方々も受け入れて育てていかなければ、これからの事業は成り立たない」という危機感をお持ちです。日本のモノづくりが減速傾向にあり、理系人材のボリュームや質を担保できないという課題に直面する状況下で、「一緒に育てながらエンジニアを増やしていく」という当社の理念に共感いただけるお客さまも多くいらっしゃいますし、その期待に応えられていると自負しています。

今年、弊事業部のエンジニアの就業人数が2万人に到達する見込みです。2万人の歩みをさかのぼってみると「どのような就業先でどういうことを学んできたか」が分かります。弊事業部ではこの膨大なデータを求職者のキャリアパスを検討する際に活用しています。求職者の「Will」と「Can」に寄り添いながら、「Must」を見いだし、このような仕事ではどんなスキルが身に付き、その次には何を学ぶといいのか、そうした具体的情報を提示することで、一緒に将来のイメージを明確に描いていくのです。

スタッフサービス・エンジニアリングでは、キャリアカウンセラーが求職者に伴走して「やりたいこと=Will」「できること=Can」「するべきこと=Must」を考えキャリアパスを描く。求職者は自身が成長を見据えて就業先での業務に向き合うことができる。
スタッフサービス・エンジニアリングでは、キャリアカウンセラーが求職者に伴走して「やりたいこと=Will」「できること=Can」「するべきこと=Must」を考えキャリアパスを描く。求職者は自身が成長を見据えて就業先での業務に向き合うことができる。

――「なぜエンジニアになれたか」がデータで検証されているのですね。

【山﨑】過去、リーマンショックの際には多くのエンジニアの雇用が失われるという経験をしました。それを二度と繰り返さないためにも、エンジニア自身がリスキリングに取り組むことで就業中の業界とは異なる業界に就業できるのではないかと考えました。例えば「設計業務」としか書かれていない業務も、会議用の資料を作ったり、パソコンのソフトを使ったりといったスキルに細かく分けると、異業界でも「スキルの共通項」が見えてくるのです。すでに身に付けているスキルを生かし、後は不足しているスキルを学んで補えば新たな業界に就業が可能になるというわけです。職にエンジニアは就き続けることでモチベーションを維持でき、お客さまに対するパフォーマンスの最大化につながっていると考えています。

成長を実感できる日々が楽しい――信頼を得て大手メーカーとの直接雇用も

――前向きな気持ちと同時に、やはり就業に当たっては不安な思いを抱えている方もいるでしょうか。

【山﨑】「本当に大丈夫でしょうか?」――そんな心境を口にする方は少なくありません。ピアノの先生だった方が、エンジニアになりたいとご入社いただいたことがあります。同じ職種からエンジニアへの転身を成し遂げた方もいらっしゃることはお伝えしていたものの、それまでモノづくりの分野との接点はなく、パソコンを使う機会などが限られていたこともあって、やはり不安げな印象でした。そこから弊事業部で各種ソフトなどの研修を実施し、キャリアプランも定めた上で、大手メーカーでの就業が決まりました。それでもまだ不安な気持ちはあったと思いますが、「今日はこれができるようになりました」「今日はこれもできるようになりました」と、自分の成長を日々実感できることが楽しいと報告してくれました。ニコニコとした表情は、営業担当者も含めてみんなが「この事業をやっていて良かった」と思えるシーンでしたね。成長するにつれてお客さまからの評価も高くなり、最終的には就業先で「文系で初めてのエンジニア」として直接雇用いただくことになりました。

理系が多くを占めるメンバーの中に文系の人材が入ることによって新しい発想につながったり、他の派遣社員に「教える」という業務を通して成長がもたらされたりと、就業先の組織にもポジティブな影響を与えることが多々あります。こうした成功体験が次に続く人たちをどんどん生み出し、「再現性のあるキャリア」という好循環を生み出しています。

2019年2月には、事業部単体でエンジニア就業人数1万人突破を記念し、イベントを開催。25年中には2万人に達する見込みで、今後さらに多様な人材がさまざまな企業のニーズに対応していく。
2019年2月には、事業部単体でエンジニア就業人数1万人突破を記念し、イベントを開催。25年中には2万人に達する見込みで、今後さらに多様な人材がさまざまな企業のニーズに対応していく。

ギャップを解消し、諦める人を減らすキャリアパスマッチングの強化へ

――お客さまにスタッフサービス・エンジニアリングのサービスが受け入れられ、支持が広がった背景には、どのような要因があると思われますか。

【山﨑】当初はなかなかお客さまにメリットをイメージしてもらうことが難しく、「うちには理系の人材しかいませんよ」といった反応が多かったですね。成功事例を生み出して、軌道に乗せるまでは、きれいなデータや理屈でお話しするよりも、とにかく地道にお客さまのお悩みやニーズと向き合ってご提案していきました。

多くの日本の企業で脈々と続いてきた「毎年4月に新入社員を迎えて育てていく」というサイクルと、技術のコモディティ化などが進んでスピード感を持った戦略が必要とされる世の中との「ギャップ」を痛感している、そんなお客さまの声をよく聞きます。次の4月までの間、採用できるかどうか分からない人材を待つのは、やはり遅いのではないかと言うのです。そうした時代の後押しもあって、文系や未経験の方々にもエンジニアとしての門戸を開き、タイミングにとらわれずしかるべき時期にエンジニア要員を確保できるというデリバリー性が、うまくマッチした面は大きいと思います。お客さまも、スキルとしては確かにまだ十分ではないかもしれないが、何より高いモチベーションを持って来てくれるなら育成しがいがあり、歓迎するとおっしゃってくださいます。人材開発に関しても当然、就業先に全てをお任せするわけではありません。お客さま、エンジニア、そして当社が目線を合わせて「3人4脚」となり、必要な研修や面談などを通じて、戦力となるまで徹底的にサポートしていきます。

――これからの事業の発展イメージなどをお聞かせください。

山﨑 亮(やまさき・りょう) 株式会社スタッフサービス 執行役員
「受け入れ側の組織にポジティブな影響を与えた例もあります」(山﨑)

【山﨑】派遣業界全体においても、「エンジニア不足を働きながら育てて解消する」という価値観が根付き、文系・未経験エンジニアのマッチングが拡大しています。当社は業界の中心となって、この新たな領域の創出をけん引できたのではないかと思っています。

ここまでを事業の第1フェーズと位置付け、今後の第2フェーズでは、ジョブマッチングから「キャリアパスマッチング」の強化をリードしていきたいと考えています。うれしいことにお客さまの下で活躍し、エンジニアになる夢をかなえた方が各所で活躍しています。こうした多様な能力を持つエンジニアを創出していくこと、弊事業部の使命にも表れている“自分らしいエンジニア人生”を歩む人を増やし、寄り添い続けていくことが、モノづくり産業を支え、業界全体への貢献につながると考えています。

そのためには、先ほどお話しさせていただいた、求職者の「Will」「Can」「Must」から考えるキャリアパス、つまりエンジニア一人一人の夢の、解像度を引き上げることが重要です。キャリアパスを通じたマッチングで、お客さまの業務とエンジニアをより深くマッチングできると考えています。エンジニアが「なりたいエンジニア像」に向かって意欲的に業務に取り組み成長する。その成長は、お客さまへの貢献に直結していくと信じています。

われわれの事業は、エンジニアとお客さまどちらか一方を向いて行うものではありません。われわれを介して、エンジニアの自己実現にも、お客さまのさらなる価値創造にも貢献していきたい、そこに私たちの事業の価値があります。これからも、人と企業の可能性を拓くため、まい進してまいります。