スピーチからわかる、カリスマ経営者の「教養力」
「独自の価値基準を持つこと」――。これが私の「教養」の定義です。教養を身に付けていない人とは、たとえば「今こそ激動期だ。従来のやり方は通用しない。ビジネスモデルを大胆にチェンジしなければならない」と、会うと必ず演説をぶつビジネスパーソンです。私はそうした人のことを、密かに「激動おじさん」と呼んでいます。
50年、60年と遡って新聞をめくると、昔からずっと「今こそ激動期だ。従来のやり方は通用しない」と書いてあります。「激動期」がずっと続くことはありません。もちろん、表面に出てくる現象は刻々と変わっていくわけですが、その根底にあるビジネスや物事の本質は変わらないというのが本当のところではないでしょうか。
氷山のように海面上に出ているわずかな部分の変化だけを見て、「今こそ激動期だ。従来のやり方は通用しない」といったところで、有効な対策は打てません。私はこうした激動おじさんを信用しないことにしています。大切なことは、様々な変化に直面したときに、「独自の価値基準=身に付けた教養」にもとづいて情報を取捨選択して咀嚼し、「要するにこういうことだよね」と物事の本質を抽出することです。
よく誤解されますが、「教養がある=情報や知識が豊富」ではありません。情報や知識はもちろん大切ですが、それらを活用する価値基準を持たなければ、「教養がある」とはいえません。
経営者にはとりわけ教養が不可欠だと考えています。経営者には、外に向けた「戦略の意思決定」、社内組織をまとめるための「人心の掌握」という、大きな責務があります。2つの役割は、ここで定義する教養がなければ、果たせません。そこでまず、前者に教養がなぜ必要なのかについて考えましょう。
才能の使い方を、教養にもとづき選択
競争のなかで企業が収益を持続的に獲得するためには、他社との違いを打ち出し、自社にユニークな価値をつくらなくてはなりません。そこで必要なのが、経営者の「戦略的な選択」です。経営者の教養が、その戦略的な選択を大きく左右します。戦略的選択が独自の価値基準に裏打ちされているほど、選択した内容がユニークになり、個性豊かな商品やサービスが生まれます。
その好例が、米国アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏です。アマゾンはeコマースとしては後発企業でした。eコマースの覇者になれたのは、先行する他社とは明確に異なる戦略を採ったからなのです。