6月24日、福岡市で無職の男(42)が男性会社員を刺殺した。その2日後、富山県の元自衛官(21)が警察官を刺殺し、警備員を射殺した。精神科医の片田珠美氏は「どちらの事件も犯行の動機は、“今に見ていろ、俺だって”という世間に対する復讐願望であり、そうした気持ちを抱く人は多い」という。同じような事件を防ぐには、どうすればいいのか――。

6月下旬に起きた殺人事件の容疑者の恐るべき「共通点」

6月26日、富山市の交番で警察官が刺殺されて拳銃を奪われ、近くの小学校で警備員が撃たれて死亡する事件が発生し、元自衛官でアルバイト店員の島津慧大容疑者(21歳)が殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。

朝日新聞(6/27)1面より

島津容疑者は、両親と折り合いが悪く、中学頃から家庭内暴力が頻繁にあって、自宅に何度もパトカーが駆けつけ、大騒動になっていたという。また、学校でも、軽く冗談を言われただけで急にブチ切れて同級生に殴りかかるようなことがあったらしい。そのせいか、クラスで孤立し、中学2年くらいから不登校になり、高校には進学しなかった。

その後、18歳で自衛隊に入ったが、自衛隊に同期入隊し、金沢駐屯地でも一緒に勤務した男性は島津容疑者の性格について「ちょっと注意されたことに、すぐカッとなる面があった」と朝日新聞に証言している。実際、自衛隊でも気に入らないことがあったという理由で人を殴り、辞めざるを得なくなったようだ。

▼容疑者は怒りや攻撃衝動を制御できない「間欠爆発症」

こうした経緯を振り返ると、この連載で4月に取り上げた、滋賀県彦根市の交番で同僚の巡査部長を拳銃で撃って殺害した19歳の男性巡査と同様に、島津容疑者は「間欠爆発症」である可能性が高い。(「“叱られたことのない人”を叱ると殺される」)

「間欠爆発症」は、怒りや攻撃衝動を制御できない衝動制御障害の一種であり、かんしゃく発作、激しい口論やけんか、他人への暴力などを繰り返す。しかも、このような爆発は、きっかけとなるストレスや心理社会的誘因と釣り合わないほど激しい。軽口や冗談などの悪意のない言葉でも、爆発の引き金になりかねないので、しばしば「かんしゃく持ち」「すぐキレる」などと陰口を叩かれる。

「間欠爆発症」の診断基準を満たす人は、どこにでもいるが、本人に自覚がない場合が多い。ほとんどの場合、傷害や器物損壊などの事件を起こして警察沙汰になり、精神鑑定を受けてはじめて「間欠爆発症」と診断される。だから、精神科医としての長年の臨床経験から、島津容疑者もその1人ではないかと推測するわけである。