なぜネットで人を「低脳」と中傷し続けたのか?

松本容疑者がしばしば他人を「低脳」と中傷したのは、過去の栄光によるのかもしれない。

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というのも、真面目で読書好きで、成績が良かった彼は九州大学文学部に進学しているからだ。もっとも、きちんと卒業できたわけではなく、留年を繰り返して8年間在籍した末に中退。在学中の2000年から福岡県内のラーメンの製麺工場でアルバイトを続け、2008年には正社員になっている。しかし、その工場も、2012年に突然一身上の都合を理由に退職。その後は無職で、実家からの仕送りなどで生活していたようだ。

こうした経緯を振り返ると、松本容疑者は、難関の九州大学に合格を果たしたことを、自分自身のプライドのよりどころにしていた可能性が高い。同時に、留年を繰り返して中退したうえ、優秀なはずの自分にふさわしい職に就けず、揚げ句の果てに無職で「ほぼ引きこもり」になってしまったことに不満と恨みを募らせていたのではないか。

何よりも彼が恐れたのは、大学を卒業できず、その後不本意な人生を送らざるを得なかった自分が、他人から「低脳」と中傷されることだったはずだ。自分自身が「低脳」と中傷される不安と恐怖を払拭するためにこそ、他人を「低脳」と罵倒せずにはいられなかったのだろう。他人を激しく攻撃することによって、「低脳」という“内なる悪”が自分自身にはないかのように装えるからである。

▼嘘つきほど、誰かが少しでも嘘をつくと徹底的に責める

このように、“内なる悪”を否認するために、同じ“悪”を他人に見出すたびに激しく攻撃する防衛メカニズムは、しばしば無意識のうちに用いられる。たとえば、嘘つきほど、他人の嘘に敏感で、誰かが少しでも嘘をつくと、徹底的に責める。あるいは、実際に不倫していたり、不倫願望を胸中に秘めていたりする人ほど、他人の不倫を激しく非難し、そんなやましい欲望など自分にはないかのようにふるまおうとする。

この防衛メカニズムが無意識のうちに働いたからこそ、松本容疑者も他人を「低脳」と中傷したにすぎない。だが、それによって、彼はネット上の掲示板という唯一の居場所を失いかねない危機に瀕した。だからこそ、「ネット上で自分を批判している人物の代表」とみなした岡本さんに対して復讐願望を募らせ、犯行に及んだのだろう。