女性会社員を刺した71歳男性の「攻撃衝動」の要因
11月11日の未明、横浜市の商店街で女性会社員が刺され、重傷を負った事件で、神奈川県警は翌12日、71歳で無職の近江良兼(おうみ・よしかね)容疑者を強盗殺人未遂容疑で逮捕した。
71歳という年齢もさることながら、近江容疑者が脳梗塞を起こして入院してから仕事を辞め、ずっと杖をついていたということも衝撃的だった。実際、防犯カメラには、杖のような物を持って被害者の後ろを歩く男の姿が映っていて、逮捕の手がかりになったという。
しかも、被害者を刺した後、さらに追いかけて再び襲っていたらしく、攻撃衝動の強さがうかがわれる。杖を離せなかったのは、脳梗塞の後遺症で歩行障害があったせいだろうが、それでも刃物で何度も襲うほど攻撃衝動が強いのは一体なぜだろうか。
「脱抑制」の可能性
まず考えられるのは、近江容疑者が数年前に脳梗塞を患った影響で、感情や衝動を抑制できなくなる「脱抑制」に陥っていた可能性である。脳梗塞になると、脳の血管が詰まってその先の組織に酸素や栄養が届かず、脳神経細胞が死んでしまう。そのせいで感情や衝動を抑制できなくなるのだ。
その典型的な症状が、感情のコントロールができなくなる「感情失禁」で、些細なことですぐに涙ぐみ、泣き出す。田中角栄が脳梗塞で倒れた後、人前でも泣いていたのは、この「感情失禁」のせいだろう。
田中角栄は泣いていたが、逆に怒るケースもあり、ちょっとしたことで怒り出す。だから、いわゆる「キレる老人」が周囲にいたら、脳梗塞の後遺症で「脱抑制」に陥っているのではないかと疑うべきだ。
近江容疑者には、「キレる老人」という評判が立っていたわけではない。ただ、普段はおとなしい人柄なのに、酒癖が悪かったらしい。また、酒を妻に止められていたにもかかわらず、ときどき隠れて飲んでいたという証言もある。これは、飲みたいという衝動を抑制できなかったからだろう。その原因として、アルコール依存症の可能性も否定できないが、やはり脳梗塞の後遺症による「脱抑制」の影響が大きいと私は考える。
犯行動機について、近江容疑者は金目的と供述しているようだが、酒を買う金がほしかったのではないか。そのために刃物で刺して金を奪うのは反社会的行動である。だから、普通は犯行に走る前に理性で考えて歯止めをかける。しかし、「脱抑制」に陥っていると、ただ酒を飲みたい、そのための金がほしいということしか頭になく、短絡的に犯行に走る。しかも、攻撃衝動に歯止めをかけることもできないので、攻撃が必要以上に激しくなりやすい。