退職金「¥20,000,000」振込で気が緩んだ60代夫婦の誤算
最近、退職後1~2年のシニア夫婦から、家計についてこんな相談を受けることが増えています。
「雇用延長をしたけれど、収入が予想よりはるかに低くて、毎月赤字なんです」
「退職金が思っていたより少なくて、定年後のライフプランが狂ってしまって」
いずれも「定年後の家計のやりくり」についての悩みです。
都内在住の森下徹さん(61歳・仮名)、真理子さん(56歳・仮名)ご夫婦もこのパターンでした。夫の徹さんは60歳で定年退職。ちょうど1年がたったところで、悠々自適かと思いきや、次のように老後の不安を打ち明けました。
「雇用延長を断り、生活費を節約して乗り切ろうと思いましたが、うまくいきません。住宅ローンが残っているのに、退職金をかなり使ってしまいました。どうすればいいでしょうか」
徹さんは電機メーカーの技術職一筋で、定年まで同じ会社で勤めあげました。定年後はしばらくのんびりしたいと、会社の雇用延長制度は利用しませんでした。ふたりのお子さんはすでに巣立ち、約2100万円の退職金と約850万円の貯金があります。65歳からは公的年金ももらえる。だからなんとかなると思ったそうです。唯一の経済的な不安といえば、あと9年間、70歳まで残る住宅ローンの返済くらいのはずでした。
自分への「ご褒美」と妻への感謝の気持ちがあだに
森下家のプランはこうです。支出は、現役時代の夫婦二人の生活費約40万円を半分の20万円まで落とす。収入は、60歳から毎月支給されている徹さんの個人年金10万円と、真理子さんが主宰する料理教室の月収約11万円の計21万円でまかなう。そうすれば貯金や退職金に手をつけることなく65歳の公的年金支給までつなげられるはずでした。
徹さんは仕事一筋のまじめな性格で、お金のかかる趣味もありません。真理子さんも仕事柄、おいしいものへのこだわりはありましたが、長年料理教室の運営をしてきた経験から、「定年後の節約生活」は容易にできるものだと思っていました。
ふたりの新しい生活は、節約生活を前提にしていたにもかかわらず、それは完全に絵に描いた餅となりました。なぜでしょうか。退職金「¥20,000,000」がドーンと振り込まれた通帳を見て、つい気持ちが緩んでしまったそうです。「がんばった自分へのごほうびと妻への感謝」として、「豪華客船の旅」を楽しんできました。1カ月間の旅で、約230万円かかったそうです。