ライブをドタキャンした歌手の沢田研二さんも「脱抑制」か

病気でなくても「脱抑制」は起こりうる

これまで取り上げたのは、れっきとした病気だが、必ずしも病気でなくても「脱抑制」は起こりうる。加齢によって脳の機能が低下するにつれて、感情や衝動を抑制するのが難しくなるからだ。もっとも、頭部MRI検査を受けても、ほとんどの場合異常は認められない。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/deeepblue)

この「脱抑制」のせいで感情をコントロールできなくなる高齢者は少なくない。今年10月にライブをドタキャンした歌手の沢田研二さんも、その1人のように私の目には映る。

沢田さんを高齢者扱いすると、ファンの方の反感を買うもしれない。しかし、もう70歳なのだから高齢者の範疇に入る。また、加齢による「脱抑制」が起こっても不思議ではない年齢である。だから、さいたまスーパーアリーナでの公演直前に、9000人の集客予定が7000人しか集まらないことを知って激怒したのは、「脱抑制」によって感情をコントロールできなかったからではないかと疑わずにはいられない。

沢田さんに限らず、「脱抑制」のせいで感情をコントロールできない高齢者はどこにでもいる。飲食店で若い女性店員に「その口のきき方は何だ!」と激怒したり、電車内で若者に「そこは年寄りの席だ。譲りなさい!」と声を荒らげたりする高齢者をしばしば見かける。周囲の人になだめられても、「なってないから注意しているだけ」「敬老精神を教えてやっているんだ」などと逆ギレする高齢者もいる。そのせいか、「キレる老人」がいても、見て見ぬふりをする人が増えているようだ。

このような「キレる老人」になるのは、もちろん従来の性格にもよるだろう。しかし、それだけでなく、加齢による「脱抑制」の影響も大きいのではないか。定年前までは穏やかで理性的にふるまっていたビジネスパーソンが、定年後は怒りっぽくなり、トラブルを起こすようになったという話をよく聞くからだ。

老い先短いのだから我慢なんかしたくない

こうした変化を引き起こすのは、「脱抑制」だけでない。定年退職による喪失感や孤独感も大きな影響を与えると考えられる。そして、何よりも無視できないのが、「老い先短いのだから我慢なんかしたくない」という気持ちである。

沢田さんは、記者会見で「僕の音楽人生にとってはもう後がない」と話した。この「もう後がない」という思いこそ、「我慢なんかしたくない」という気持ちに拍車をかける。しかも、年を取るにつれて強くなる。

脳梗塞や脳出血、あるいは認知症はひとごとと思っている読者の方も、加齢による「脱抑制」からは逃げられない。また、高齢になるほど「老い先短いのだから我慢なんかしたくない」という気持ちも強くなる。それを肝に銘じ、「暴走老人」にならぬよう今から気をつけるべきである。

(写真=iStock.com)
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