1000人以上の死者が出る危険性があった
本当に大丈夫なのだろうか。新幹線の台車に亀裂が見つかった問題に対するJRの対応のことだ。
昨年12月、新幹線のぞみの台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、JR西日本は2月28日、川崎重工業が台車を製造した際、鋼材を削り過ぎて強度が保てず、大きな亀裂につながったとの調査結果を発表した。
JR西日本の説明によると、台車枠の厚さは加工後7ミリ以上必要とされているが、問題となった台車枠の最も薄い箇所はこの基準よりも2.3ミリ薄い4.7ミリだった。
台車枠の底面の鋼材を削りすぎた理由について、川崎重工業側は「作業指導票では鋼材を削ってはいけないと規定されているが、班長は別の仕上げ基準を拡大解釈して0.5ミリまでは削っていいと勝手な思い込みで支持した」と説明し、マニュアル違反を認めている。
一方、JR西日本は「他の車両で破断に至るような傷は確認されていない。運行には支障はない」とし、順次台車を交換するという。
事故は想定外のところで起きる。運行しながら台車を交換していくやり方で本当に大丈夫なのだろうか。
鋼材の厚さが基準未満の川崎重工業製の台車は、JR西、東海で合わせて約150台にも上る。運行中、何かの拍子で亀裂が生じ、それが一気に大きな亀裂になる危険性はないのだろうか。その亀裂が原因で台車が破損すれば、間違いなく大事故につながる。
乗車率100%だと、車両の型にもよるが、乗客数は軽く1000人を超える。言い換えれば1000人以上の死者が出る大惨事が起きる危険性があるのだ。新聞各紙の社説も台車の削りすぎの問題を一斉に取り上げた。しかしどの社説も追及が甘い。
「安全の根幹にかかわる製造ミス」
まずはこの手の問題で追及が厳しいといわれる朝日新聞の社説(3月2日付)から見ていこう。朝日社説はその冒頭で「安全の根幹にかかわる製造ミスだ。点検体制見直しや他の車両の安全確保が必要である」と主張する。
この主張はその通りでうなずける。それに「安全の根幹」「製造ミス」「安全確保」という言葉が、単刀直入で実に分かりやすい。
次に朝日社説はこう指摘する。
「台車は車体を支え、枠は強度を高める重要な部材だ」
「メーカーの川崎重工が、設計基準では厚さ7ミリ以上いる枠の底面を4.7ミリまで削っていた。溶接する別の部材とのすき間を調整しようとした現場の判断だった。これが強度に影響し、亀裂が広がったという」
「新幹線部品の製造現場なのに、現場判断で設計以下に削ったことは驚きだ」
現場が設計を無視する。朝日社説が指摘するように考えられない事態である。
船舶や航空機など大勢の乗客を運ぶ乗り物の設計の大前提となるのは、安全である。新幹線などの列車も例外ではない。それを設計者に相談することもなく、勝手に変更してしまうのだから安全に対する意識のかけらもない。