安倍首相が謝罪するほど杜撰なデータ
「裁量労働制」の国会議論をめぐって厚生労働省の調査データ比較に大きな誤りが見つかり、それを引用した安倍晋三首相が2月14日、取り消し謝罪を行った。さらに多くの数値に誤りがあることも新たに判明した。
政府や厚労省の杜撰(ずさん)さに、野党からは「捏造ではないか」との批判が集中し、国会の論議が紛糾した。
裁量労働制とは、あらかじめ決められた時間を働いたとみなす制度である。
議論が紛糾したのは、厚労省が前提の条件が異なるデータをそのまま比べた杜撰な資料を作成したのが原因だった。この杜撰な資料は3年前に野党に対する説明資料として作り、国会の審議で使われてきた。
誤った資料に基づいていたわけで、裁量労働制のこれまでの国会審議は何だったのか。
厚労省は「担当者の認識が不十分だった」と釈明
一義的には厚労省の杜撰な体制が問題だ。厚労省は「担当者の認識が不十分だった」と釈明するが、問題の資料は担当の課長やその上の局長も承知していたはず。
安倍首相が答弁を撤回したのは、問題の発覚から2週間も経過した2月14日だった。この2週間の間、厚労省は一体、何をやっていたのだろうか。
厚労省内のチェックが機能していないし、危機管理に対する意識も薄い。
新聞各紙も社説で取り上げ、なかでも“左”の朝日新聞は安倍首相を厳しく批判する。これに対し、“右”の読売新聞はわりと冷静だ。
しっかりしたデータで議論しろと朝日
全国紙の社説のなかで、口火を切ったのは、朝日新聞だった。2月21日付の朝日社説は、その冒頭から多少皮肉を織り交ぜながらこう指摘していく。
「もともと比べられないデータを比べ、国会で説明したのはまずかった。しかし政策の中身には影響がないから、法案は予定通り、近く国会に出す」
「安倍首相の国会答弁とその撤回を巡って論戦が続く裁量労働制の適用拡大について、政府の姿勢をまとめれば、こうなる」
このあと、朝日社説は主張する。
「こんな説明は通らない。野党が求める通り、政策論議の基礎となるしっかりしたデータをそろえてから議論するのが筋だ」
分かりやすい主張である。続けてこうも主張する。
「あくまでミスだったという。だが、こんな重要な資料を大臣に報告もせず職員が勝手に作るとは、にわかに信じがたい。誰の指示で、どんな意図で作られたのか。徹底的に解明することが不可欠だ」
「政府はこのデータを、長時間労働への懸念に反論する支えとしてきた。誤った説明を繰り返し、賛否が分かれる論点の議論を尽くさずにきたこと自体が、大きな問題である」
これも理解できる。