『女子大生風俗嬢』とは何とも刺激的なタイトルだが、若者が社会的弱者となってしまった日本の現状を独自の角度から照らし出した真摯なノンフィクションだ。
著者の中村淳彦氏は本書の「はじめに」で、都内や横浜で20店舗以上の風俗店を運営する経営者の言葉を借りながら、驚くべき実情を明らかにする。「女子大生? うちにもいるし、どこの店にもいるよ。今はどんな偏差値の高い大学の学生でも、風俗で働いている女の子は一定数必ずいる」「特に増えたのは2008年の世界不況以降だろうね」。
続く本章で、著者は実際に風俗店で働いている、あるいはかつて働いていた女子大生にインタビューを行い、仕事ぶりや収入、風俗店に飛び込んだ理由をつまびらかにしていく。迫真のルポルタージュから浮かび上がってくるのは、高収入を得られる風俗で働かなければ、学生生活を満喫するどころか勉強にも就職活動にも支障をきたしてしまう女子大生たちの姿だ。
都内の私立大学に通う女子大生は貧しい両親には頼れず、月10万円の奨学金を借り、授業終了後に飲食店でアルバイトして学費を賄おうとした。しかし飲食店での収入は月3万円にしかならない。アメリカに私費留学したい気持ちも芽生え、それを叶えるために風俗店の門を叩く。彼女は言う。「風俗を始めてからやっと普通の学生みたいになれたんです」「奨学金の返済が始まりますから、社会人になっても風俗は続ける」。
都内の有名私立大学を卒業し、大手企業に就職した女子大生は、就職活動に専念しようと一時期、風俗店で働いた。東北出身の彼女は学費を捻出するため塾講師と飲食店でのアルバイトを掛け持ちしたが、経済的にも時間的にも行き詰まり、就職活動が始まる前にまとまったお金を稼ごうと風俗の世界に入る。
なぜ女子大生風俗嬢が増えたのか。著者は自ら学費を稼がなければならない学生の増加を指摘する。厚生労働省によれば1世帯当たりの平均所得額は1994年の664.2万円から、2013年には528.9万円へと約140万円も減少した。一方、文部科学省の数字を基に計算すると、入学金・授業料など私立大学の学費は4年間で約450万円に上る。地方から上京した学生はこれに家賃や食費などが加わる。収入減に直面する親たちはもはやこれらのお金を負担しきれないのだ。
しかも日本では奨学金の多くが返済義務のある有利子の学生ローンで、それなりの金額を借りると多額の借金を背負って社会人人生を始めなければならない。
学生が社会的弱者になってしまった現状は彼ら彼女らだけでなく日本の未来にとってもマイナスではないか。そんな著者の思いが行間から伝わってくる一冊だ。