日本経済を飛行機にたとえるなら、自動車産業と電子産業はその飛行を支える2つの翼だと考えてよい。しかし、電子産業の国内生産金額は2000年の約26兆円をピークとし、13年には約11兆円と半分以下に落ち込んだ。
一方で、10年ほど前から私は、観光業は日本経済にとって大きな成長が望める数少ない産業の1つと見てきた。そのため、地方のインバウンド事業支援などに精を出している。この観光業、とくにインバウンド事業を見ると、狙った通りの結果が出ている。昨年の訪日外国人数は約1973万人に上り、その消費額も過去最高の3.4兆円を記録した。観光業は電子産業に代わって、日本経済という大型機の一翼になりつつあると評価していいだろう。
一方、絶好調のように見える日本の自動車産業はいつまでいまの勢いを保てるのかと問われると、たじろいでしまう。だから自動車産業に代わって、日本経済を背負って立つ可能性のある産業を見出して育てていかなければならない。私は、ひそかにそれは農業だと考えている。
09年12月、香港を訪問した。佐藤重和・在香港日本総領事(肩書は当時)とあれこれと歓談した。その中で非常に印象に残った内容がある。香港を訪れる日本の知事らに、佐藤総領事はいつも香港市場を過小評価してはならないと強調していた。日本の農林水産物の最大輸出先は、人口3億の米国ではなく、700万しかない香港なのだという。実は08年の輸出先のトップスリーは、香港(1053億円)、米国(836億円)、台湾(692億円)だった。香港への輸出がこんなに多いのは、いうまでもなく後方に広がる中国市場への再輸出が行われていたからだ。
こんな経緯があったから、書評に取り上げる本を探していたとき、本書の書名が目に入った瞬間、これだと決めた。
本書によれば、日本では今後、零細な農業従事者が高齢を理由に一気に引退する。それによって長年の懸案だった農業の大規模化が進み、生産効率が上がって、巨大な輸出産業に成長するという。著者は経団連の政策提言などを引きつつ、今後、日本の農業生産額は5兆円から20兆円近くに増加し、日本のGDP約500兆円の4%を占めるようになるだろうと予言する。
本書に出てくる若手農業経営者の証言によれば、現状でも「(コメ農家は)みんな儲けてないふりしてるだけですよ」「本気でやってる専業農家は、きちんと儲かってる」という。大規模化し、ロボット技術などの応用が進めばさらに効率化するから、輸出産業としても有望となる。この見立ては間違っていないと私は思う。これから農業は、日本経済という大型飛行機の飛行を支えるもう1つの予備の翼になれるだろう。