「建設的な対立」を築くために、必要なこと

こうした建設的な対立を築くためには、大変な労力がいるだろう。まずは、自分たちとまったくタイプの異なる人間を見つけて傍に置かなければならない。つまり、イエスマンではない人間だ。そんな存在をまわりにおくだけで、私たちは非常な忍耐とエネルギーを要することになる。なぜなら、自分に似た人間を好むという生物学的欲望に逆らうことになるからだ。

ヘッファナン氏によれば、これは「異なった素性や規律、異なる思考パターン、経験を持つ人を探し、彼らと関わり合う方法を見いだすことを意味する」という。考えてみれば、そのことやその相手を気にしないのであれば、それほどの労力と時間を割いて、相手を反証しようとなどできないだろう。つまり、そこにはその事象や人物に対する一種の愛情のようなものがあり、私たちが持つ「対立=敵対」という固定的な概念を切り替えるべきことを意味している。

「欧米の企業の重役を調査した結果 85%が、仕事上提起したくない問題や悩み事を抱えているとされる。起こりうる対立への心配や、どう処理すればいいかわからない議論へ巻き込まれることへの不安があり、彼らは敗北の気配を感じるからだ」とヘッファナン氏は言うが、ここに必要なのは対立意見をあわせ、共に考えることなのだろう。

たとえば小さな身内という単位ながら、スティーヴン・キングは、自分の小説を妻に真っ先に読んでもらい、最初の意見をもらったという。彼女が「ダメだ」と思うことは、自分と対立していようと読者のひとつの視点として、何よりも大切にしたそうだ。むしろ、何も反対意見のないままに決定してしまうことの恐ろしさをキングも感じていたのだろう。

「対立なければ決定なし。マネジメントの行なう意思決定は、全会一致によってなしうるものではない。対立する見解が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断のなかから選択が行なわれて初めてなしうるものである。したがって、意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行なわないことである」(*)とはドラッカーの言葉だが、「対立の技能、習慣、才能、それを使うマナーを身に着けない限り、我々は問題を解決できません」とヘッファナン氏は言う。

ときには、自分と異なる見解も“対立”意見ととらえずに、もうひとつの案として、自分の考えを見直すよい機会として考えてみる。それは、もっともらしく思えてしまうが、実は不完全な意見に振り回されたり、間違った方向に右へ倣えをしたりする前に、まずは検討の余地を生む代案にも目を向けることである。そして、「なぜその人物が対立する主張をするのか」の根源を明らかにし、問題としての根本を解決することで、自分が主張したい内容、伝えたい思いを、より明確で強い内容へと導いてくれるはずだ。

[脚注・参考資料]
Margaret Heffernan, Dare to disagree, TED Global 2012, Filmed Jun 2012
http://www.ted.com/talks/margaret_heffernan_dare_to_disagree

*『マネジメント- 基本と原則』ピーター・F・ドラッカー 著, 上田 惇生・翻訳 (ダイヤモンド社 2001年)

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