日本経済新聞社の記者として40年以上にわたり市場を見つめ分析し続けてきた“マエダ先生”こと前田昌孝さんが、投資の基本から最新の市場動向まで平易に解き明かします。ビジネスや投資に生かせる「本質を見抜く眼」を養いましょう。連載第4回は「株主の年齢の変化」に着目します。
上場企業の焦燥、「若年層から見限られるな!」
投資家の若返りと経済活力との関係は、風が吹けば桶屋が儲かるかの話とよく似ていて、証明は難しい。ただ、多くの上場企業が株主構成の若返りに懸命になっていることは確かで、実際に株主の平均年齢は低下している。企業経営にとって重要なのは、新しく株主になった若年層から見限られないようにすることだ。旧態依然たる経営から脱し、未来に向けて動く企業が増えれば、成長期待が高まることは間違いない。
株主の平均年齢がどう変化してきたかは、全ての株主を住所、氏名、生年月日をベースに名寄せして、一人一人に単一の株主番号を割り当てている証券保管振替機構(ほふり)の統計からうかがい知ることができる。
直近の2026年5月末時点の年齢層別個人株主数を万人単位で示すと、20歳未満31万人、20歳代76万人、30歳代173万人、40歳代232万人、50歳代290万人、60歳代259万人、70歳代243万人、80歳以上182万人、年齢不明194万人となっている。
筆者の手元の統計では日本の個人株主数が本格的に増え始めたのは2020年ごろからだから、2019年末の状況と比べてみよう。当時は20歳未満12万人、20歳代26万人、30歳代89万人、40歳代171万人、50歳代201万人、60歳代229万人、70歳代232万人、80歳以上141万人、年齢不明244万人だった。
その後の6年5カ月間の増加率は20歳代の2.92倍を筆頭に、20歳未満が2.61倍、30歳代が1.94倍になっている。40歳代以降の5~44%増に比べ、増加の勢いが明らかに違う。20歳未満は全員15歳、20歳代は全員25歳、80歳以上は全員85歳などと仮定して平均年齢を試算すると、2019年末に60.8歳だったのが2026年5月末には57.4歳に低下したことがわかる。
年に0.5歳ずつ若返っている計算だ。誰でも年に1歳ずつ年をとることを踏まえれば、相当な勢いで若返りが進んでいる。少額投資非課税制度(NISA)の導入・拡充や、1株から売買できる証券会社のサービス強化なども、若年層の投資デビューを促しているが、資金力が限られる若年層を呼び込もうと、企業が投資単位(最低投資金額)の引き下げに積極的に動いている効果も見逃せない。
株式分割が過去最高に。その思惑とは……
日本の上場株は100株(1単元株)ずつの売買が原則だから、企業が1株を何株かに分割すれば、投資単位は低くなる。例えば株価5000円の企業が1株を5株に分割すれば、株価は1000円前後になり、最低10万円前後から買えるようになる。
こんな株式分割を実施した上場企業は2024年に214社、2025年には過去最高の242社を数えていた。2026年も7月2日現在で159社(7月以降に実施予定の24社を含む)に達している。終活や相続によって保有株を売却していく高齢株主の穴を若年層で補っておかないと、企業経営に理解を示す個人株主が減り、不本意な買収提案やアクティビスト(物言う株主)の攻勢に振り回される恐れがあるからだ。
しかし、若い株主が魅力を感じる経営に取り組まなければ、失望売りを招くだけかもしれない。実社会で活躍している若年層の目はシビアだ。勝ち残れるビジネスモデルを備えているか、ESG(環境・社会・企業統治)などの社会的要請に応えているか、女性活躍や人材獲得で後れをとっていないか、経営陣のメッセージが適切かなどは常にチェックされ、おかしいと感じればSNSで発信する人もいるだろう。
資本主義社会では絶え間ない優勝劣敗が成長の原動力である。顧客の若返り、社内人材の若返り、株主の若返りは企業が発展し続けるための必須の要件だといっていい。経済の活性化につながるかどうかは、若い株主の視線を企業が経営に活かせるかどうかにかかっている。
(文=前田昌孝)