【FV】マーケ解剖学_第3回

日本経済新聞社の記者として40年以上にわたり市場を見つめ分析し続けてきた“マエダ先生”こと前田昌孝さんが、投資の基本から最新の市場動向まで平易に解き明かします。ビジネスや投資に生かせる「本質を見抜く眼」を養いましょう。連載第3回は「銘柄選び」について考えます。

株価を買うのか、企業を買うのか、それが問題だ

積み立て投資で大人気の投資信託「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」、いわゆる「オルカン」だが、6月17日現在で純資産総額が約12兆6600億円に達した。2025年6月中旬には6兆円強だったので、1年間で倍増した。その急成長ぶりは驚くばかりだ。

この投信を設定・運用している三菱UFJアセットマネジメントの月次レポートによると、組み入れている世界の株式は5月末現在で2463銘柄にもなる。ただ、2463もの企業の中身を吟味して買っているのではない。2463銘柄の株価の変化に追随するように運用しているだけである。

株価を追い掛ける投資はオルカンのような指数連動型の投信(インデックス投信)だけではない。1銘柄への投資でも、チャートを見ながら「買い場だ」「売り場だ」などと判断し、タイミングよく売買するといった手法がある。銘柄は何でもいい。株価の上下動が大きく、値幅が取れそうな銘柄が注目を集めやすい。

米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏の投資手法はまったく異なっている。同氏が会長を務める投資会社バークシャー・ハザウェイの3月末時点の上場株の保有額は3080億ドル(49兆円強)とオルカンの4倍近い。しかし、保有銘柄数は米国株だけで27銘柄、日本の商社株などを含めても三十数銘柄にすぎない。

同氏が毎年2月にバークシャーの株主に宛てて執筆してきた「株主への手紙」を振り返ると、事業家の目を持って企業を観察・分析し、将来、大きく伸びそうだとの確信が持てる企業の株式を、株価が割安な「今のうち」に買うことを心掛けているという。

巨富を築くバフェット流「推し活投資」の極意

株価の変化を追い掛けるだけの投資と、企業の価値を吟味しながら買う投資とどちらが効率的なのかは、何とも言えない。少額投資非課税制度(NISA)が刷新され、積み立て投資の限度額が大幅に引き上げられた2024年1月から毎月末にオルカンに1万円ずつ積み立ててきた人は、この5月末現在、29万円の累計投資元本に対し、含み益が10万4800円ほどになっている。投資リターンは年率換算で28.6%だ。

バフェット氏の投資手腕は、最新の「株主への手紙」に掲載されている過去61年間のバークシャー株の上昇率で測ると、年率19.7%である。29カ月間で年率28.6%と61年間で年率19.7%とでは、後者の方がはるかに難しいが、短中期の投資ならば、株価を追い掛けた方が効率的なことも多いだろう。

どちらを選ぶかは、「投資とは何か」という問いに対する一人ひとりの受け止め方の違いでもあるし、投資スタイルの違いでもある。銘柄はなんでもいいから、効率的にリターンを稼ぎたいと考えているのか、リターンは結果的に出てくるものであり、まずは将来性のある企業に自分のおカネを振り向けたいと考えているのかによって、投資手法は異なるのではないか。

筆者の好みを言えば、後者である。投資はいわば推し活であり、気に入った企業の株価が上がり、その企業の資金調達コストが下がったり、経営陣や従業員のモチベーションが上がったりするのが、苦労して稼いだ自分のお金の役立て方としていいと感じているからだ。ただ、最終的にどちらが多くの投資収益を得られるかは神のみぞ知る話であって、どうすべきかを他人に強要するような話ではないだろう。

※2026年6月17日現在

(文=前田昌孝)