ロボアド

「ロボアドバイザー(ロボアド)」という言葉をよく耳にするようになった。「今、はやりのAIが自分に代わって最適の投資を行い、最大の成果をもたらしてくれる」といったイメージを抱く人もいるかもしれないが、実際はどのような商品なのだろうか。また、株価暴落といった市場の波に対応できるのだろうか。株式会社FOLIOで執行役員としてAI投資「ROBOPRO(ロボプロ)」を統括する西村彬宏氏に、ロボアドの歴史と最新の商品力について聞いた。

ロボアド誕生、きっかけはリーマンショック

「ロボアドとは、お客様へのアドバイスに人を介さないことを目的としてつくられた分散投資サービスです」

西村氏は説明する。

欧米ではもともと、顧客からの相談を受けた投資専門のアドバイザーが、個別にポートフォリオを提案することが一般的だった。ポートフォリオとは金融商品の組み合わせを指し、株式や債券といった異なる資産クラスの組み合わせとその配分からなる。

しかし2008年にリーマンショックが起きると、そうした資産の価値が暴落してしまう。プロのアドバイスに従いリスク分散していたにもかかわらず資産価値が大きく下がったことで、「これではアドバイザーに高いフィーを払う意味がない」という声が上がる結果となった。

これをきっかけに、より手数料の安い、Web上で質問に答えることで自動的に分散資産の提案を行うロボアドが開発され、普及していく。日本でも2015~16年頃から「THEO[テオ]」「ウェルスナビ」といったロボアドが登場した。現在ではスマートフォンの普及により、スマホアプリがロボアドサービスの中心となっている。

「ロボアドは年齢や投資経験などについて5~7問程度の質問を行い、その回答を基にどれぐらいの価格下落になら耐えられるかというユーザーのリスク許容度を診断、適正と思われるポートフォリオを提示してくれます。扱う資産クラスは株式や債券の投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などさまざまです」

FOLIO西村彬宏氏
西村彬宏(にしむら・あきひろ)
株式会社FOLIO 執行役員 グロース部、金融戦略部、投資運用部管掌。CFA協会認定証券アナリスト。
三菱UFJ国際投信株式会社(現三菱UFJアセットマネジメント株式会社)、株式会社三菱東京UFJ銀行(現株式会社三菱UFJ銀行)への出向などを経て2023年FOLIOに入社。

「安くて気軽」なロボアド市場は急拡大中

ロボアドには大きく、「アドバイス型」と「投資一任型」がある。アドバイス型は適切な資産配分を提示するだけで、多くは無料。必要な金融商品はユーザーが自分で購入する必要がある。投資一任型は、ユーザーがロボアドの提案を了解して注文すれば、投資が実行されるサービスだ。こちらは手数料がかかるが、金融商品の購入や運用をすべて任せることができる。

これらロボアドの特長は投資に必要な手続きが全面的に自動化されていることだ。ユーザーは商品選択や資産の配分、運用などを一切考えることなく、入金だけで投資が行える。人が介在しない分、手数料も1%程度と、2%以上が普通の対面型のアドバイザー運用に比べ低く抑えられている。

「ロボアドはスマホで気軽に始められてコストも低く、自分でポートフォリオのバランスを決められない投資初心者や、自分で投資をしてみたもののうまくいかなかったという人に適した投資サービスといえます。対面で行われる一般の金融機関の顧客は60代から70代の方が中心ですが、ロボアドはスマホベースのため若い世代が多く、ユーザーの中心は30代から50代です」

「安くて気軽」を特長とするロボアドの登場によって、分散投資のハードルは大きく下がった。ロボアド市場はここ1、2年で急速に拡大しており、最大手のウェルスナビは2024年に預かり資産残高1兆円を突破している。

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ロボアドは「AIで積極投資」をしていなかった!

ただロボアドについては誤解も多い。

「ロボアドというと『投資をAIにやらせている』と想像する方もいらっしゃるかと思いますが、大部分のロボアドは機械的にポートフォリオを設定し、その資産配分比率を維持するのが一般的です。AIを使って資産クラスや配分比率を大きく組み替えていくような積極的な運用を行うことは、少なくとも日本のロボアドではほとんどありません」と西村氏。

一般的なロボアドは、最初に設定したポートフォリオからずれが生じた場合に元に戻すリバランスを行うことはあっても、AIを使って能動的に売買しているわけではないということだ。

では、AIを使ってプロのファンドマネジャーでもできないような大量の情報収集や分析、判断に基づきながら、緻密な投資配分の変更によって実績を上げているロボアドはないのだろうか?

実は現時点でひとつ存在する。それが西村氏の所属するFOLIOのAI投資「ROBOPRO」だ。

「日本の主なロボアドや投資信託の中で、資産運用にAIを活用して人の判断が入らない形で定期的に投資配分比率を入れ替えているのは、弊社のROBOPROだけだと考えます」

データとAIを組み合わせ、さまざまなソリューション提案を金融機関に行うAlpacaTech株式会社とともに、「こうしたデータとAIの組み合わせにより、これまでにない新しいロボアドバイザーがつくれるのではないか」という着想から、資産運用そのものをAIが行うロボアドサービス「ROBOPRO」が2020年に誕生した。

「ROBOPROは投資一任型タイプのロボアドで、米国株式、先進国株式、新興国株式、米国債券、新興国債券、ハイイールド債券、不動産、金という8つのグローバル資産クラスに対して分散投資を行います。一度ポートフォリオを決めた後は資産の種類や配分を大きく動かすことのない一般のロボアドと異なり、市場で得られるデータに基づいて、各資産がこれから値上がりしそうか、それとも下がりそうかをAIが予測、その判断に基づいて毎月、投資配分を入れ替えるのです」

資産の入れ替えは一般的にはファンドマネジャーの業務なので、ROBOPROはいわば「AIがファンドマネジャーを務める資産運用サービス」といえそうだ。

株価大暴落を「不動産と金を中心にしたポートフォリオ」で乗り切る

西村氏はFOLIO入社以前、大手金融機関での投資信託に関わるさまざまな業務を経験してきたが、そんな投資のプロの目から見て、AI予測の利点はどこにあるのだろうか。

「何と言っても圧倒的に多くのデータ分析ができることが利点です。人間と違い感情にとらわれないことも強みで、それにより相場の転換点を的確に見抜くことが期待できます」と西村氏は語る。

2024年8月5日、日経平均株価が3万1,458円42銭(終値)まで一気に4,000円以上も下落した。7、8月には米国株指数のS&P500も円建てで最大18%も下落している。普通のファンドなら大損を出しているところだが、ROBOPROは運用する資産の価値をほとんど落とすことなく、8月通月ではプラスリターンを確保した。

ROBOPROはどうやって相場下落局面をうまく乗り切れたのだろうか?

「一般的なロボアドの場合、積極的な運用コースであれば、資産中の株式の割合は5割~6割程度で、比率が大きく変わることはありません。しかしROBOPROはAI予測に基づき、今後上昇が期待できる資産を組み入れる結果、下落する可能性の高い資産を外すことが期待でき、このときは株式の多くを売却、不動産と金を中心にポートフォリオを組んでいたため、株価下落の影響を最小限にできたのです(下図、2024年8月を参照)」

ロボアド
AI投資「ROBOPRO」では、AIの予測を基に、毎月投資配分の変更を行う。予測に応じて、攻めの資産である株式の比率を増やす、守りの資産である金の比率を増やすなど資産クラスと投資配分を変更し、パフォーマンスの最大化を目指す。また、相場の急変時には臨時で投資配分の変更を行い、相場の変化に対応する。

トランプ大統領再選を受けて「臨時リバランス」を実施

西村氏のような投資のプロであっても、ROBOPROのダイナミックな運用を見て、「え?」と驚くことはしばしばだという。

「2024年10月末の資産配分の見直しは、その1週間後にアメリカの大統領選挙を控えていました。人間のファンドマネジャーであれば選挙結果が出るまで、リスク量を落とすなど様子見となるところですが、ROBOPROは米国株への強気な見通しから、米国株の配分を増やしました(上図、2024年11月を参照)。さまざまなデータを踏まえての判断なのですが、人間からすると、『この局面でここまでリスクを取るのか』と驚いてしまいますね」

なおROBOPROは、通常月1度行われる投資配分の変更に加えて、市場が変動の高い局面に入ったと定量的に判断される場合に「臨時リバランス」を実施している。11月7日には米大統領選の結果を受けて、「臨時リバランス」を実施し、米国株式の一部を利確し、先進国株を取り入れるポートフォリオとなった。この変更は、米大統領選前から上昇を続けていた米金利の影響を比較的大きく受けたものと考えられている(上図、2024年11月7日を参照)。

「インデックスだけじゃつまらない」という人にも好評

2020年1月にスタートしたROBOPROは、わずか4年9カ月で資産価値を100%上昇させるという結果をたたき出している。預かり資産残高はまだ500億円強ではあるものの、過去1年で2倍に急増中だ。

「ROBOPROは他のロボアドと比べると、スタートしてから相対的に日が浅いこともあり、お客様はすでに投資体験のある方が7、8割を占めています。年齢的には他のロボアドと同じく、30代から50代が8割を占めています」

投資家の中でも「インデックスファンド中心でこれまで投資をやってきたけれども、より投資の楽しさを求めたい」「株に偏っている資産を分散できないか」と考えていた人が、新たな投資商品を探してROBOPROを見つけるケースが多いという。

「世の中の流れを見ると、お客様対応やマーケティングに関わる領域においてもAIの利用が進んでいくでしょう。弊社でも、現在のROBOPROのように8つの資産クラスのリターンを予測対象とする戦略以外に、個別企業の株式のリターンを予測して好パフォーマンスの獲得を目指す運用戦略にも取り組んでおり、今後も適用可能な分野を広げることにチャレンジしていきたいと考えています」

2023年のChatGPTの登場以来、AIに対する人々の意識は大きく変わりつつある。投資初心者にもベテランにもAIを使った資産運用が身近なものとなり、いずれあたりまえのものとなるだろう。日々、投資の常識がアップデートされる今、ロボアドのさらなる進化に注目だ。

(取材協力=西村彬宏 執筆=久保田正志 撮影=大崎えりや 図版作成=大橋昭一)