はじめての金投資1

新NISAスタートを背景に、投資熱が高まっている。SNSでは「オルカン一択!」という声も目立つ。オルカンは、日本を含む全世界の株式を主要投資対象とするインデックス型の投資信託だが、そんななか、じわじわと価格を上げ続けているのが「金」だ。「金投資は、インフレ時代にぴったりの、守りの投資。今こそ、目を向けてほしい投資商品」と公言するファイナンシャルプランナーの横川由理さんに、金投資の魅力について聞いた。

今こそ金投資に目を向けるべき3つの理由

金の価格が上昇している。金の年次小売価格推移(平均、地金商系、税抜)を見ると、2010年代は1グラム4000円台で推移していたが、2019年に5000円近くに迫り、その後もじわじわと上がり続けている。そして2020年に6000円台になってからも上昇を続け、2024年7月平均は1万2185円。わずか4年で倍近くになった計算だ。

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投資の初心者からすると、これほど上昇を続けていると暴落も不安だし、何となく「お金持ち向けの投資」というイメージもありハードルが高いように感じてしまう。しかし横川さんは、「今こそ多くの人に、金投資に目を向けてほしい」として、金投資の3つの魅力を挙げてくれた。

1つ目が「実物資産であること」だ。

「株式は、その会社が破綻すると価値がゼロになってしまいますし、債券も同様のリスクがあります。しかし、金はそのものに価値がある『実物資産』ですから、価値がなくなることがありません。しかも、地下資源なので掘り出す量にも限りがあり、希少性が高い。そのため、金を買いたいという人が多く、価格が下がりにくい性質があります」

こうした理由から、歴史的に、経済危機や戦争などが起きると世界中の投資家が金を買う傾向があり、「有事の金」ともいわれてきた。

実物資産にはほかに不動産もあるが、金ほど希少性が高くないほか、劣化もある。安定的な投資先としては、金に軍配が上がりそうだ。

守りの資産たるゆえんは「株とは異なる値動き」にあり

そして、2つ目の特徴である「分散投資に適している」点も魅力だ。

長期で資産を形成する場合の基本は「分散投資」。株式など1つの資産に集中投資すると、もしその資産の価格が下落した場合、全財産が目減りしてしまう。それを防ぐためには、値動きが異なる商品を組み合わせて分散投資することが鉄則だ。

「金の価格は、経済危機などで株価が下がったときには、むしろ上がる方向に動くことが多い」と横川さん。

このため、「株式だけ」「債券だけ」など、1つの資産に集中投資を行うのではなく、いくつかの資産を組み合わせて分散投資を行ってほしい。そのための投資先として、金投資が適しているといえるのだ。

横川さんは「金の価格は上下しますが、短期間で大きく乱高下するほどではありませんでした。このため金は短期の利益を得ようと積極的に投資するものではなく、ほかの資産が目減りする分をカバーする、分散投資に適した『守りの資産』だといえます」と説明する。

3つ目の特徴は、流動性の高さだ。

金は、市場が大きく、すぐに現金化することができる。例えば、純金コインや金の延べ棒を持っている場合も、田中貴金属や三菱マテリアルなどの貴金属商に持ち込めば、その日の価格ですぐに換金できる。急に資金が必要になった場合にも安心だ。また、最近は金を対象にした投資信託(非上場)やETF(上場投資信託)も人気で、証券会社や銀行でも気軽に取引できる。

需給と為替、2つの変動リスクが利益を生む

金は、需給関係と為替という2つの要因から価格が決定される。需要が上がれば価格が上がり、需要が下がれば価格は下がる。また、国際的に米ドル建てで取引されているため、為替の影響を強く受ける。

「2023年秋以降、米ドル建てでも金価格は上昇しており、日本では、さらに円安の進行から急上昇しています。金には需給と為替という、2つの価格変動リスクがあるので嫌がる人もいるかもしれません。しかしながら金に限らず相場は、上がるときもあれば下がるときもあるもの。

1980年に4000円を超えていた金は、20年間で1000円台に値下がりしています。その後の金価格は、ご存じのとおり上昇傾向にありますね。投資を行う上で、守るべきルールはたった1つ。価格が値下がりしたときであっても、買い続けることがその後の成績を大きく左右します。

そもそも価格の変動がなければ利益は出ず、投資の意味がありません。価格の変動があるからこそ利益が出るので、過度に価格の変動を恐れないでほしい」

と横川さんは話す。参考までに、価格変動のことをリスクという。リスクがなければ利益を得ることはできない。

そして、金価格は長期的に見ると、株式ほど乱高下することは少ないといえるだろう。これまでの傾向から将来を予測するのは難しいが、暴落の心配が比較的少ない投資といえそうだ。そこも「守りの資産」である理由の1つといえる。

希少性の高い貴金属の実物資産といえば、金のほかにもプラチナがある。しかし横川さんによると、「プラチナは、金とは価格の動き方が大きく異なる」という。

「プラチナは工業用途の需要が大きく医療器具や燃料電池などのほか、自動車の排出ガスを無害化するための触媒として使われることが多い。自動車が売れないとプラチナの需要が高まらないため、プラチナ価格は近年ほとんど変化がありません」

このようにプラチナは工業用途が多いので、景気に左右されやすい。また、金に比べると市場が小さいため価格が乱高下しやすい傾向がある。プラチナの価格変動は大きいため、安定した資産形成には向いていないといえるだろう。金投資が持つ、「分散投資に適している」といった魅力には欠けそうだ。

「資産のうち10%くらい」を目安に長期の積立投資を

1990年代後半から続いたデフレが終わり、日本はインフレの時代に突入している。横川さんは、「将来インフレが予想されるからこそ、『実物資産』である金投資がぴったり」と強調する。実際、横川さんは、日本がデフレだった頃から「歴史的にみても、必ずいつかはインフレに転じるはず」と考え、金投資に着目してきた。

「モノの値段が上がるのがインフレです。金もモノですから、インフレだと金の値段も一緒に上がる傾向があるのです」

読者の中には、「今から始めても大した恩恵は受けられないのではないか」と尻込みする人もいるかもしれない。それに対して横川さんは次のようにアドバイスする。「確かに円高傾向になるなど、数年単位で見ると、値下がりすることが十分考えられます。冒頭、ここ50年間の金の価格の推移を見てもらいましたが、人生100年時代と考えると今から50年以上生きる可能性がある読者も多いのではないでしょうか。資産運用は長い目で見て行う必要があります。だからこそ、価値ある金を価格の変化に一喜一憂することなく、積立投資していくことをおすすめします。資産のうち10%くらいを目安にするとよいですよ。集中投資はいけません」

「新NISAはオルカン一択で老後も安心!」という人にも、ぜひ投資資金の1割を金に振り分けることを検討してみてほしい。

(横川由理=取材協力、大井明子=構成)