はじめての金投資2

価格上昇が続き、投資先として関心が高まっている「金」。その購入方法は複数あり、好みに応じて選べるのも魅力だ。新NISAブームで投資に関心をもった初心者におすすめの「金投資の方法」を、自身も長く金投資をしてきたというファイナンシャルプランナーの横川由理さんに聞いた。

月1000円程度から始められる手軽さが魅力「純金積立」

前回の記事で、「インフレ時代にぴったりの守りの投資」(横川さん)という金投資だが、実際に購入する場合にはどうすればいいのか。

「金投資」というと、純金コインや金の延べ棒(ゴールドバー)など、金そのものを購入して保有する「金地金(きんじがね)」をイメージするが、ほかにも「純金積立」「非上場投資信託」「ETF(上場投資信託)」などの方法がある。

まず、金地金は、田中貴金属や三菱マテリアルなどの貴金属商で購入することができる。純金コインは、カナダの「メイプルリーフ金貨」、オーストリアの「ウィーン金貨ハーモニー」などがあり、純金コインも金の延べ棒も、さまざまなサイズがある。

金の現物をやり取りするため、購入のたびにお店に足を運ぶ必要があったり、盗難や災害の恐れもあるため、保管が面倒だったり、長期的な資産形成には向いていない。さらに純金コインの場合、傷がついてしまうと、買取価格が安くなってしまう。

一方、「純金積立」「非上場投資信託」「ETF」は、金を手元に保管する必要がなく、積み立ても楽なので、長期的な資産形成には向いているといえる。

純金積立は、毎日一定額の金を購入しながら積み立てていく。月1000円程度から、貴金属商だけでなくネット証券などでも始められる。

純金積立は、一定金額分の金を購入するので、価格が高いときは少しだけ、価格が安いときはたくさん買えることになる。積み立てた分は、純金コインやゴールドバーなどの金地金で引き出すこともできるし、売却して現金化することも可能だ。「ただ、購入するときの価格と、売却するときの価格は異なり、買うときは高め、売るときは安めになっています。また、購入手数料や管理料がかかりますが、貴金属商でもネット取引の場合は管理料がかからなかったりとさまざま。比較してから決めるといいでしょう」と横川さんは話す。

税金面でもメリットがある。純金積立は、売却した際の利益が1年間に50万円までであれば、税金がかからない。ちなみに、個人が金地金を売却した場合は、譲渡所得として所得税と住民税の課税対象になるが、譲渡所得のうち50万円までは非課税だ。

非上場投資信託やETFでも金は買える!でも「手数料に注意」

非上場投資信託やETFには、株式を対象としたもののほかに、純金を対象とした商品がある。いずれも証券会社で購入できるほか、非上場投資信託は銀行などでも購入が可能だ。

横川さんは純金積立と投資信託を利用する上での「大きな違いは手数料です」という。純金積立の場合は、購入時に購入手数料がかかるが、保有中の手数料がかからない。一方、非上場投資信託やETFは、購入した後も保有している分に対して運用管理費用(信託報酬)がかかる。「運用管理費用は、保有している限りずっとかかり続けるので、その分、資産が目減りしてしまいます。購入時にかかるイニシャルコスト、そして保有時にかかるランニングコストを比較して、できるだけ安いものを選ぶといいでしょう」と横川さんは話す。

非上場投資信託とETF比較表
種類 名称 購入時手数料 運用管理費用(実体)もしくは経費率
非上場投資信託 三菱UFJ純金ファンド 上限1.10% 0.99%
ETF 国内 純金上場信託 証券会社によって異なる 0.44%
ETF 国内 SPDRゴールド・シェア 0.40%
ETF 米国 iシェアーズゴールドトラスト 0.25%
ETF 米国 SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト 0.10%
参考 純金積立(貴金属商) 2.50% 0%
※横川由理さんへの取材を基に編集部作成。

投資信託の運用管理費用について説明しよう。上の表で挙げた「三菱UFJ純金ファンド」の場合、目論見書を見ると運用管理費用は年0.55%とある。しかし、この商品は表の2番目にある「純金上場信託」で運用されているため、その運用管理費用の0.44%も必要となる。そのため、表の「運用管理費用(実体)もしくは経費率」欄には0.55%と0.44%を加えた0.99%を記している。一方、ETFは証券会社を選べば基本的に購入時手数料はかからない。運用管理費用も非上場の投資信託より低く設定されている。

では、新NISAブームで投資に関心をもった初心者が金投資を始める場合は、どの方法を選べばいいのか。

「非上場の投資信託とETFの運用管理費用を比べると2倍以上の差が生じる。『新NISAをきっかけに資産形成を考えて証券会社に口座を開いた』という人が初めて金投資をする場合には、運用管理費用が抑えられるETFがおすすめです。ネット証券で購入をすると、購入時手数料がかからないところも多い」と横川さんは話す。

金を対象としたETFは、ほとんどが新NISAの成長投資枠の対象になっている。ぜひ、ETFをトライしてみよう。

たとえ価格が下がっても絶対に積み立てをやめてはいけない

横川さんは、「最近投資を始めた」という人に向けて「これだけはぜひ伝えたいことがある」という。それは「価格が下がっても、絶対に積み立てをやめないで」ということ。

「今は株価も上がっていますし、最近投資を始めた人はまだ、『利益が出てプラスになっている』という経験しかしてないと思います。でも、投資は価格変動リスクがあるので、必ず上がったり下がったりする。下がったときにショックを受けて暗い気持ちになってしまい、積み立てをやめてしまう人がいますが、やめないでほしいのです」

価格が下がったときにも積み立てを続けていれば、また何年か経って価格が上がってきたときに、安く買ったときの分が利益を生んでくれるからだ。

「30~40代の読者の方の親御さん世代には、『バブル経済のときに投資をしたが、株価が下がって大損をした』という人もいるかもしれません。でも本当は、バブル崩壊で株価が下がったときに売るのではなく、買わなくてはいけなかったのです」

分散投資をしていない人は、もし次に経済危機がやってきて株価が下がったとき、株式しか持っていなければ、資産価値が一気に目減りしてショックを受けるだろう。しかし、金などに分散投資していれば「株式は下がったけれど、金は上がっているから、平均するとそれほど打撃を受けていない」と、投資を続けることができる。

価格が下がったときは安く買えるチャンス。横川さんは、「価格が上がっても『うれしい』、下がっても『うれしい』と自分に言い聞かせながら積み立てを続けてください」と、資産運用の“極意”を教えてくれた。

今、投資を始めたばかりの人たちにとっての試練は、これからやってくる。価格が下がったときに踏ん張ることができるか。そのためにも、今こそ「金で分散投資」を検討してほしい。

(取材協力=横川由理、構成=大井明子)