多くのマネーの専門家が「新NISAで買うならオルカン(全世界型の投資信託)」と口をそろえるが、オルカンさえ買っておけば本当に間違いないのだろうか。オルカンのようなインデックスファンドとアクティブファンドの違いを、プロ投資家の藤野英人さんに聞いた。
投資で稼げるかどうかの分水嶺はたった一つ
世間の投資への関心がかつてないほどに高まる中、多くの専門家が「オススメの投資信託」として頻繁に取り上げているのが「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」、通称オルカンである。
新NISAの「つみたて投資枠」でオルカンを買えば、全世界に投資することになり、リスクが分散され、毎月積み立てることによって複利効果で資産を形成することができる。確かに間違いなさそうに見えるが、本当にこうした「インデックスファンド一辺倒」という単純な手法でいいのだろうか。
投資信託「ひふみ」シリーズの最高投資責任者で、レオス・キャピタルワークス代表取締役社長の藤野英人さんは「インデックスかアクティブか、という議論はあまり意味がない」と話す。
「投資には『必ず成功する法則』はありません。大事なことはたった一つで、長期的に保有し続けること。投資商品自体は、インデックスでもアクティブでもどちらでも構わないのです。問題は、買った商品が下がっても、コツコツと積み立て続けられるかどうか。これが投資で稼げるかどうかの分水嶺です。日本人はどうしても『またリーマンショックみたいなことが起きないか』というような心配ばかりしてしまいがちです。でも、もしまたリーマンショックのような金融危機が起きたとしても、パニックにならず、そのまま同じように投資を続ければ、ロングタームで見て利益が出るはずなんです」
オルカンでも勝てない理由。必ず下がる局面が来る。
「何を買えばいいのか」と悩む人が多いが、「何を買うか」よりも「いかに買い続けるか」のほうが重要な観点だと、藤野さんは繰り返し強調する。そもそも「オルカンにもリスクがないわけではない」として、こう続ける。
「オルカン一辺倒の投資スタイルでも問題はありません。でも、オルカンはノーリスクなのかといえば、それは違う。いま世界中でインフレが進み、格差も拡大し続けていて、いつどこで内戦が起こるかもわからない状況にあります。またアメリカではGAFAMのようなごく一部の企業だけが突出して、それ以外の大多数の会社は成長の波に乗れていません。明らかに健全な市場環境ではないわけで、アメリカ経済や世界経済だって何かのきっかけで大崩れするかもしれない。であれば、いまオルカンを買うことで高値づかみをさせられている可能性はある。そういうリスクは常にあるということなんです」
オルカンもどこかで下がるときが必ず来る。そのときに買い続けられるかどうかだ、と藤野さんは指摘する。では、オルカンのようなインデックスファンドか、ひふみ投信のようなアクティブファンドか、どちらかを選ぶときには何を判断材料にすればいいのだろうか。
「人や組織を信頼して投資する、というタイプの人ならアクティブが向いていると思います。当社のひふみ投信であれば、この藤野というファンドマネージャーを信用するとか、理念に共感する、などですね。アクティブのいいところは、人や組織の思いを乗せやすいということです。これは長く投資を続けるという意味では、気持ちが乗っているぶん、アクティブのほうが続ける意欲が湧く面はあると思います。一方、人や組織ではなく仕組みやシステムを信用するという人は、インデックスがいいでしょう。ただ、投資対象に思いがないので、下がったときにパニックになりやすい。それでも積み立て続ける気持ちを持っていないと、投資で稼ぐことは難しいと思いますね」
勝てないときのメンタルを保つには
そうすると、アクティブとインデックスのどちらかを買うにせよ、結局「続けられるかどうか」がすべてということになる。そのためには、下がったときにもオロオロせずに投資を続けられる「メンタル」が必要になってくるのではないだろうか。
「おっしゃる通り、投資で最も重要なのは『自分の心の状態』です。ファンドを運用するのもそうですが、投資はメンタル、感情のコントロールがすべて。海外のトップ投資家だとメンタルコーチや心理カウンセラーをつけたりすることもありますが、日本だと文化的にそこまでは難しいかもしれない。でも、ファイナンシャル・プランナーなど外部の専門家に相談する、見立てを聞くというのは効果的だと思います。その費用を高いと思うかもしれませんが、投資の損失はときに数百万円単位になったりするわけですから、そう考えると外部のアドバイザーをつけるのは必要コストと割り切ってもいいのではないでしょうか」
投資とは、勝負の世界でもある。大谷翔平のようなアスリート、藤井聡太のような棋士と同様、強いメンタルを持つ人は、投資にも向いているということか。藤野さんは「そうですね……」としばし黙考したうえで、こう答えた。
「どんな分野でもいいので、『勝った経験がある』人は投資の資質もあるように思います。他者との競争に勝つというのは簡単なことではなくて、自分のメンタルをコントロールしながら相手に立ち向かわなければいけません。そして、時に負けることもあると思いますが、それでも勝つまで続けることができた人。現時点で劣勢に立たされていたとしても、『最後は自分が勝つ』と、ある意味『楽観的な見通し』を持てる人。こういう人は投資においても続けられるメンタルを保てると思います」
投資は難しいもの、怖いもの、普通の人はやっても損をするだけ……そんな風に感じている人は少なくないのかもしれない。だから、「一見間違いのない選択肢」としてオルカンを買うのだろう。もちろんそれはそれでいいのだが、「下がったときに買い続ける覚悟とメンタルを持っているか」ということは、始めるときに自分に問いかけてみるべきではないだろうか。
(取材協力=藤野英人、構成=田中裕康)