fv_個別株投資を長く続けるための心構え

新NISAで資産が順調に増えていくさまを見ていると、「次の一手」として個別株投資に挑戦したくなる。成長企業を見極めて投資し、大きなリターンを得た――そんな話を耳にする機会も増えた。しかし、現実はそううまくいくのだろうか? これから個別株投資を始めようとしている人に向けて、大和証券の人気アナリストが厳しくもためになるアドバイスをしてくれた。

個別株投資の現実はそんなに甘くない

つみたてNISAで投資デビューして順調に資産を増やしている人の中には、次のステップへ進もうと考えて「個別株投資をやってみようかな」と思っている人がいるかもしれません。ですが、もしそういう人が目の前にいたら、私は「やめておきなさい」と言うでしょう。

なぜなら、つみたて投資と個別株投資はまったくの”別もの”だからです。そもそも、つみたて投資は投資と名前がついているものの、その実質は「貯蓄」の面が強いです。投資信託なら銘柄分析も必要ないし、売買のタイミングを計ることもありません。多くの人はその手軽さに魅力を感じてつみたて投資を始めたのでしょう。

しかし、個別株投資は銘柄選択と売買のタイミングこそが、成否を分けるのです。成功しようと思えば相当の「勉強」を重ね「経験」を積まなくてはなりませんが、皮肉なことに「経験」を積もうと思えば、必ず失敗するのです。

初心者が10回投資して10回とも勝てることはまずありません。良くて5勝5敗でしょうが、多くの人は勝ち負けが同数でもトータルでは手痛く敗れて、資産を大きく減らしてしまうのです。精神的にも相当にきついことでしょう。

そういう嫌な思いをしてもなお「やり続けよう」という希有な人しか、居続けることができない世界です。資金を完全に失ってしまったら、もう経験を積むことすらできません。また、長く続けさえすれば、勝てるようになるわけでもありません。

個別株投資の世界には百戦錬磨のプロがごまんといて、資金力と組織力を使ってしのぎを削り合っています。そんな過酷な戦場に「つみたてNISAで利益が出ているから」程度の理由で素人がのこのこやってきて、勝てるはずがないのです。

「伸びる業界」より「自分が熟知している業界」がいい理由

あなたが「それでもやりたいんだ」とおっしゃるなら、止めはしません。そのうえで私がアドバイスするとしたら「最初は自分が熟知している業界の銘柄しか、買ってはいけません」ということです。

例えば、あなたが飲食業界で働いているならレストランチェーンや食品飲料の会社、建設業界で働いているならゼネコンや建機メーカー、服飾業界で働いているならアパレルや繊維会社などが選択肢になるでしょう。

自分の仕事に絡んだ業界なら、まったく畑違いの業界よりも判断の精度が上がるでしょうし、情報も得やすいはずです。投資が見込み違いだった場合には、人より早く気づける可能性も高いでしょう。

失敗の場合は早く潔く撤退するほど損失を軽減でき、残った資金を次の投資に使えます。何より、自分の属する業界に詳しくなることは、本業の仕事にもプラスの効果をもたらすはずです。そうして勉強と経験を積みながら、少しずつ投資の範囲を広げていくのです。

個別株投資に進むなら、とにかく甘い期待は抱かないことです。「投資はセンス」という人もいますが、センスは磨かれなければならず、それには長い年月をかけて偶然ではない勝利を積み重ねる「経験」が必要になります。同時に必然的な失敗を認めて早期に撤退する「経験」も必要です。さらには、偶然の成功に天狗にならない自己管理、偶然の失敗でも市場から退場を余儀なくされない範囲にとどめるリスク管理も必要です。こうしたことを意識し、研鑽を積み続けることが成功への最低条件と考えるとよいでしょう。

(取材協力=木野内栄治 構成=渡辺一朗)