FV_相場のサイクル

株式投資においては「安く買って高く売る」ことが鉄則。相場が上がるタイミング、下がるタイミングは誰もが知りたいところだが、それが分かれば苦労はしない。 日本経済新聞社のアナリストランキングにおいて20回も1位を獲得している日本トップレベルのアナリスト、木野内栄治さんによれば、株価の変動には短期、中期、長期、超長期のサイクルがあるという。買い場や売り場を見極め、投資の成功率を高めるヒントとは。

【短期】買いのチャンスは年に2回訪れる

株式市場には、季節性と呼ばれる年間の特定のタイミングで株価が動きやすい傾向があります。例えば、2月と10月は「買い場」として知られています。過去20年の日経平均の動きを見ると、2月にボトムをつけ、5月にかけて上昇、8月から10月に再びボトムをつけて年末に向けて上がっていくというパターンが繰り返されています。

これは日本だけの傾向ではなく、他の先進国市場でも見られる傾向です。まず、なぜ2月が買い場なのか。その背景には米国の税還付が関係しています。米国では給与所得者であっても確定申告の必要があり、毎年2月半ばから5月にかけて40兆円規模の税金が還付されています。還付金によって投資余力が大幅に増加し、その資金が市場に流れ込むことで相場全体を押し上げるのです。日本でも、確定申告の影響でわずかながら税金が戻ることがあり、投資に回る資金が増える傾向があります。

10月に株価が下がりやすい理由は、ミューチュアルファンド(米国における一般的な投資信託)の損益通算のタイミングが関係しています。売買による利益の実額は、米国では分配金に回さない限り法人課税の対象になるため、含み損を抱えている銘柄を実現損にするために売却し、実現益を小さくするのです。その手続きが税制上10月末締めのため、株が売却されやすい10月は株価が下がる傾向にあります。

短期サイクルを活用するうえでは、あらかじめタイミングを決めておくことが重要です。のべつまくなしに買いを入れるのではなく、「2月や10月は買いのチャンス」という一定のルールを設けることで、相場に冷静に向き合うことができます。

また、こうした買い場で投資を始めると、その後の上昇局面で安心してポジションを維持しやすくなります。逆に高値で買うと、下落の局面で含み損に耐える必要があり、精神的な負担が大きくなるため、結果的に売却のタイミングを逃しやすくなります。

まずは中長期の傾向を確認し、大きな流れをつかんでください。そのうえで季節性などの短期的なサイクルを見ていくと、全体の動きと個別のタイミングを理解しやすくなるでしょう。

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【中期】在庫循環が生む景気は2025年半ばがピーク?

電子部品やテック業界では、在庫循環が株価に大きな影響を与えるサイクルが存在します。このサイクルは、在庫の積み上げと消化が業績や株価の動きと密接に結びついていることに由来します。

たとえば、iPhoneは約3年ごとに買い替え需要が高まり、企業はこれに合わせて事前に製造量を増やし在庫を積み上げます。

パソコンでは7年ごとに買い替えのタイミングが訪れるといわれています。2025年にはWindows 10やOfficeのサポート終了が控えているため、これらの買い替え需要も在庫積み上げの追い風となっています。

現在は意図的な在庫の積み上げが続いており、この流れは2025年半ばまで続くとみられています。企業は買い替え需要のピークに備えて製造を増やし、在庫を確保している状況です。株価もこの影響を受けて好調を維持しており、2025年中頃にピークを迎える可能性があります。

しかも、足もとでは米国の追加関税実施の見通しを前にして、一刻も早く米国に輸出し、米国での在庫を積み上げる動きが強まってきました。意図した在庫の積み上げ局面では、株価は上がりやすいのです。

しかし、買い替え需要が一巡すると在庫の消化が終わり、それに伴い業績が伸び悩む局面が訪れることが予想されます。次の大きな買い場は、在庫が底を打つ2026年頃になるとみられます。

【長期】10年ごとの変革期は設備投資に起因する

10年単位のサイクルは、米国の自動車販売や通信技術の世代交代といった設備投資の波に連動しています。自動車や通信技術といった分野では、10年ごとに買い替えや技術更新が進むため、この動きが株価に波及するのです。

米国の自動車販売は、西暦末尾が「2」の年に販売台数が底を打ち、「6」の年にピークを迎えるという10年サイクルを形成しています。たとえば、2022年が底であったとすると、次のピークは2026年になると予想されます。この背景には、米国製の新車が10年程度で買い替え時期を迎えることや、廃車までのサイクルが関係しています。中古車市場の動きもこのサイクルを後押しします。

通信技術の更新も10年サイクルになっています。2001年の3G、2010年の4G(LTE)、2020年の5Gといった形で、ほぼ10年おきに新しい通信規格が導入されてきました。これに伴い、通信インフラの設備投資が進み、経済全体の活性化につながります。ただし、新規サービスが開始されると、通信網の整備が一段落するため株価は下落傾向に転じることもあります。

【超長期】インフラの老朽化で50年に1度の転機が近づいている

50年単位の「超長期サイクル」も存在します。このサイクルは、ロシアの経済学者ニコライ・コンドラチェフの名をとり、「コンドラチェフの波」と呼ばれます。特徴的なのは、物価の上昇とイノベーションが密接に関連している点です。具体的には、インフレの進行が需要を刺激し、それが新たな技術革新を生むという流れが繰り返されるのです。

現在のインフレには、老朽化したインフラの更新需要が大きく影響しています。1970年代に建設された橋梁や送電線などが劣化し、大規模な修復や建て替えが必要とされています。これにより、インフラ関連産業での設備投資が活発化しています。また、こうした状況は、次世代インフラの整備といった新しい技術革新の機会を生む基盤ともなります。たとえば、スマートシティ構築やエネルギー効率化技術がその一例です。

しかし、インフレにはもう一つの重要な側面があります。需要が供給を上回る「需要超過」の状態は、企業にとっては成長のチャンスでもあります。利益が増える環境下では、研究開発や設備投資が活発化し、その結果としてイノベーションが促進されます。コロナ禍後のマイクロソフトがOpenAIに大規模投資を行い、ChatGPTを生み出した事例はその象徴といえるでしょう。

2030年以降、このインフレによる研究開発の波は、さらなるイノベーションを引き起こし、高成長期をもたらす可能性があります。このように、現在のインフレは一見デメリットに見えるものの、長期的には経済を活性化させるきっかけになるのです。

株価の観点でも、50年サイクルには一定の規則性が見られます。歴史的に、日本の株価は40年ほど上昇し、その後20年ほど調整するパターンが観測されています。現在は長期的な上昇トレンドに入った局面にあり、この流れは2050年代まで続く可能性があります。

投資戦略としては、長期的な成長が見込まれる分野、特にAIやエネルギー、インフラ整備といった領域は、今後も資金が集中し続けると予想されます。

サイクルを味方に、勝てる投資戦略を

短期、中期、長期のサイクルはそれぞれ独立しているわけではなく、相互に影響し合っています。たとえば、短期的な季節性が中期的な在庫循環と重なると、上昇トレンドが強まることがあります。一方で、長期的な設備投資の波が衰退すると、短期・中期のトレンドに抑制がかかる場合もあります。

今後は2025年の在庫循環のピークと2026年の10年サイクルの自動車需要増加が重なることで、自動車関連株や半導体業界に大きな追い風が吹く可能性があります。このように、短期・中期・長期のサイクルがどのように相互作用するかを予測することが、成功する投資戦略の鍵です。

まず長期チャートで全体像を把握し、中期や短期のチャートでタイミングを計ることで、より精密な投資判断が可能になります。それぞれのサイクルを味方に付けた投資戦略を実践してみてください。

(取材協力=木野内栄治 構成=渡辺一朗 図版作成=大橋昭一)