ストーリーはつくらず、論証を試みる

有名な行動科学の実験(*1)に参加して、ロウソク、箱に入った画鋲、マッチをテーブルの上に置かれて、こう言われたとする。

「テーブルに蝋が落ちないように、ロウソクを壁に取り付けてください」

さて、あなたならどうするだろう?

多くの人は画鋲でロウソクを壁に留めようとしたり、マッチの火でロウソクを溶かして壁にくっつけようとしたりして失敗に終わる。ところが5分から10分すると、たいていの人は「箱をろうそく台にすればいい」と気づき、箱を画鋲で壁にとめるそうだ。

ここでのカギは、“小箱は物を入れる”という「機能的固着」を乗り越えるところにある。つまり、箱を「画鋲入れ」だと考えてしまうことから抜け出し、「ロウソク台になる」と気づくことで解決策は見つかるだろう――。

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TEDのステージに登壇してこの実験の話を展開したダニエル・ピンク氏は、アル・ ゴア副大統領の首席スピーチライターも務めた人物である。このプレゼンでは「ストーリーは語りません。主張を立証します。合理的で証拠に基づいた法廷における論証で、ビジネスのやり方を再考してみたいと思います」と語った。

人を話に引き込むためには「ストーリーをつくる」ことが有効だとされるが、今回は、かつて法科大学院にも通った経験を生かして“論証”を試みようという。その話の組み立ては、まずは聞き手に問題を提示する形で“ロウソクの実験”の話題から始めたのだが、これが現代の仕事の課題を象徴する事象であり、主張の論拠であり、最後に話を包み込む鍵となっていく。ピンク氏のプレゼン内容自体も興味深いので、流れを含めてご紹介していこう。

氏が次に提示したのは、“ロウソクの実験”を使って行った“インセンティブ(報酬)の効果に関する実験”(*2)である。グループ1には、「一般的にこの問題をどのくらいの速さで解けるか時間を測る」と告げる。グループ2には、問題を解く速さに応じて、具体的な金額で報酬を提示する。その上で“ロウソクの実験を行う”というものだが、実験結果は意外なものだった。