自分の行動や発言を、著名な言葉で裏付ける
「ハングリーであれ 愚かであれ」
これは、スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業祝辞で述べた、誰もが知る有名な言葉である。まるで、ジョブズ自身の名言かのような脚光があたり、雑誌やテレビなどあらゆる媒体で流された。
拙著『スティーブ・ジョブズに学ぶ英語プレゼン』(日経BP社)にも全文を掲載させていただいたが、引用前の流れをお読みの方は、スチュワート・ブランドが創った『ホールアース・カタログ』という雑誌の最終号に掲載された言葉であることはご存知だろう。自身が感銘を受けた言葉を、祝辞の締めくくりに引用したわけだ。
ジョブズは引用が巧いことでも有名だが、その使い方は“自分たちの行動や発言を、よりインパクトのある人物の言葉で裏付する”ことが多かった。話の流れの的確な場所で、自分の主張をサポートするためにピタリとくる言葉を引用するために、その言葉がまるでジョブズの名言かのような独り歩きをすることもあったようだ。
たとえばiPhoneを発表したときに引用した、アラン・ケイ氏の「ソフトウェアに真剣に取り組むものは、そのソフトのためのハードウェアをつくるべきだ」という言葉も広く知られている。これは、自分たちがつくったソフトウェアを生かすために、“電話機を再発明した”という背景をバックアップするための言葉だった。
ケイ氏は、大きなコンピュータを複数で共有するのが当たり前だった時代に、パーソナル・コンピュータという概念を提唱し、コンピュータ業界に大きな影響を与えてきた人物である。こうした“実績ある人物”が残した言葉が「まさに自分たちの研究開発の理念と合致する」と示すことで、自らの行動の正当性を強められるわけだ。