決め手は「ダイレクト」かつ「具体的」

先日、学生時代の友人Lがニューヨークから出張でやってきた。ニューヨークに行くたびに、よく彼らの古びたシェア・アパートメントに遊びに行ったものだ。Lは学校を修了するとNASAへの就職を蹴って金融業界に飛び込み、今は大手証券会社で世界の9割のマネージャーをしている。飛行機はビジネスかファーストクラス、宿泊は一流ホテルのスイートという待遇だ。そんな今でも、古いアパートの学生時代と同様に気が優しく、こまごまと人の世話をやいてくれる気質は変わらない。

数学の博士として研究者になるものと思っていたので、正直いって金融業界でここまで大成するとは驚きだった。けれども、彼を見ていると企業の大勢をまかされるのに「なるほど」と納得する会話技術が浮かびあがる。もちろん、プレゼンのコーチもついているけれど、自分なりの研究と練習を積み重ねているそうだ。今回は、そんな彼の「伝え方の技術」と、自分が世界中から報告を受ける側としての「印象」についてシェアしてもらった。

瞬時の判断を求められる仕事において、人に伝えるときに最も力を注ぐのは「シンプルにすること」だという。世界中の動きと共に、決めなければならないことがあっという間に山積みになっていく……そんな人たちを相手にするとき、「決め手となる一言」を、いかに渡すかが重要になるわけだ。そのため、心がけている言葉選びは

「ダイレクト(直接的)」かつ「コンクリート(具体的)」。

たとえば、ファーストフードならば「クオリティ・値段・スピード」であり、郵便システムなら「Overnight Delivery(翌日配送)」など、具体的でキャッチーなセールスポイントがあげられるだろう。これをわざわざ冗長にする必要はないし、「えっと」や「あの」などで、“強い言葉”を薄めてしまっては台無しだ。いらない言葉をできるだけ省くことで、伝えたい言葉がより引き立つというわけである。