女性客に借金などを背負わせる悪質なホストクラブが問題視されている。中には、借金返済のために売春せざるを得ない女性もいるという。週刊SPA!編集部 国際犯罪取材班『海外売春――女たちの選択――』(扶桑社新書)より、東海地方で看護師をしているサクラ(29歳)のエピソードを紹介する――。(第2回/全3回)
シャンパンタワー
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ホストクラブに着く前に東京に呑まれる

2023年の5月半ば。サクラは久々におしゃれをし、コロナ禍では通う頻度も落ちていた馴染みの美容室に寄ってから新幹線に飛び乗った。デートに行く前のような高揚感。久しく忘れていた感覚だった。しかし、サクラは新幹線の車内で、何度も自分に言い聞かせていた。

「ホストクラブは最初で最後にしよう。今日、聖夜に会えたらそれでおしまい」

新宿の喧騒はサクラにとって刺激的だった。歩き疲れた足を休めようとチェーンのコーヒー店から見た靖国通り。多くの人が行き交っているだけなのに、自分が過ごした地元での「陰鬱な3年間」とのギャップになぜか胸の苦しみを覚えた。

ホストクラブに着く前にすでに東京に呑み込まれてしまっていた。そんな自分を振り払うようにトイレに入り、身支度を整えた。そして、スマホの地図アプリを立ち上げると、歌舞伎町の最深部にある聖夜の店に向かった。

12万円のシャンパンを半額で注文

「インスタで見ていた聖夜とぜんぜん変わらない」

店に入ると聖夜(仮名)がいた。他の女の接客をしていたが、見ているだけで癒やされた。年下なのに落ち着きがあり、そして何より童顔で微笑んでいる。いざ自分のテーブルに来ても紳士的な振る舞いに別世界の男を見た。

「シャンパン入れて」などおねだりもない。カネを使わない自分は分不相応なのではないかと恐縮するほどだった。内勤のボーイが「初回ですのでシャンパンはすべて半額です」と囁くので「じゃぁ、一本ぐらい」と思ってしまった。

ボーイが勧めたのは12万円のシャンパンだった。財布と相談し、半額になるならと、それでも精いっぱい背伸びをした。跳び上がるほど喜んだ聖夜の笑顔がサクラにはこのうえない幸福に感じられた。