勝手にシャンパンタワーが準備されていた
1週間ぶりの聖夜との再会。聖夜と過ごす時間だけは変わらず楽しかった。
しかし、この日は店内の様子がいつもと違った。シャンパンタワーが準備されていたのだ。隣に座った聖夜にサクラは聞いた。
「きれいなタワーだね。誰が入れたの?」
「あれ、サクラのだよ」
サクラは心底驚いた。
「勝手なことしないで……」
「なんと超超! 可愛い! 素敵な! 姫から! 愛情! いただきます!」
聖夜に抗議する声はシャンパンコールにかき消されてしまう。聖夜はサクラに流し目で礼を述べた。
「ありがとう! おかげで今月もナンバーワンでいられそうだ」
この日、サクラは初めてクレジットカードで支払いをした。1枚目のカードは限度額を超え、もう1枚を使った。2枚のカードで分けて支払いをした。飲み干したシャンパンの味はしなかった。
「サクラも海外に行ってみない?」
「これで終わる」
ホストクラブの闇を十分に感じさせる話ではあるが、当事者のサクラは違うことを考えていたという。
「これでやっと終わると思いました。もうお金が無いんだから、ホストとしては私には用済みだろうけど。このあと連絡はくれないだろうと思っていた。しかし、それ以降も変わらずに連絡をくれていたから……将来は一緒になれるのかなって」
聖夜はサクラの預金をすべて搾り取った後も、変わらずに接していた。
しかし、それはサクラを“彼女”として見ているわけではなかった。「将来も支えてほしい」などと甘言をささやきながら大事な“金づる”としか見ていなかった。物心両面で支えようとしたサクラの気も知らず。
ある日、聖夜はサクラにLINEでこんな話をもちかけた。
「この前、店で800万円のタワーがあったんだけど。それは姫が海外に1カ月行って稼いできたんだって。サクラも海外に行ってみない?」
「海外でどうやって稼いだの?」
「海外のソープランドみたいなところだって」
「絶対イヤだしムリだよ」
「お願い! もう一回ナンバーワンになったらホストを辞めてサクラと一緒になるから。もう一度だけタワーやってほしいんだ」
聖夜はサクラに海外での売春を持ちかけたのだった。