群馬県高崎市の老舗だるま店に、異色のだるま職人がいる。父から店を継いだ中田千尋さんは、新しいだるまを生み出し、ヒット作を次々と生み出している。学生時代はモデルを目指し、銀座や六本木のクラブに足繁く通う“パリピ”だった中田さんの素顔を、フリーライターの中たんぺいさんが取材した――。
だるま職人になった中田さん
提供=中田さん
だるま職人の中田千尋さん。高崎だるまの老舗「だるまのふるさと大門屋」の5代目社長

SNSで話題を集めた昔ながらのだるま店

群馬県と新潟県を繋ぐ国道18号線に面した「だるまのふるさと大門屋」(群馬県高崎市)。店に入るとピラミッドのように積み上がった赤いだるまがこちらを見ていた。さらに足を進めると、3人の若い女性グループが棚の前で立ち止まっていた。

店内に入るとだるまのピラミッドがお出迎え
提供=中田さん
店内に入るとだるまのピラミッドがお出迎え

視線の先には虹のようなグラデーションが特徴的な色鮮やかなだるまがあった。女性客たちは「きれい!」とうなずき合っていた。対面にあるテーブルには「アマビエだるま」が置いてある。長いまつ毛と紺色の瞳、背中のうす紫色が非常にポップだ。

カラフルな店内を見渡すと、うすいピンクの作務衣さむえを着た女性が動き回っていた。茶色の髪の毛を後ろで1本にまとめ、爪にはレッドブラウンのネイル。モデルのような華やかさをまとっている。

仕事は丁寧で速い。にこやかに会話をしながらレジ打ちを終えたかと思えば、作業スペースに戻って席に着く。金色の塗料が染み込んだ筆先をパステルカラーのだるまの背中に滑らせていく。

数十秒で完成した2文字の女性の名前は書道家の作品のように凛々しかった。すると今度は店舗の奥に回り、数十人の観光客を率いるガイドと中国語で打ち合わせに入る。

広々とした店内。昔ながらの赤い高崎だるまのほか、色鮮やかなだるまが並んでいた
提供=中田さん
広々とした店内。昔ながらの赤い高崎だるまのほか、色鮮やかなだるまが並んでいた

キラキラした雰囲気を醸し出す“だるま職人”

俳優にも、職人にも、商人にも見えるこの女性は、100年続く「だるまのふるさと大門屋」の5代目社長・中田千尋さんだ。

コロナ禍で4カ月売り上げゼロだった老舗だるま店を「アマビエだるま」で救い、これまでなかった新しいだるまを次々と生み出してきた。だるまの生産量はそのままに、会社の売り上げを2倍に増やした復活の立役者だった。

キラキラした雰囲気を持つ千尋さんは、かつては夜遊びに浸っていた過去もあり、修行がつらくて会社に行けなくなった経験がある。「主役として輝きたい」という強い想いを持ち、成功を掴んだ職人の道のりをたどる――。